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経済学で私服勤務が浸透しない原因を考えよう

こんにちは、研修終わりの耳栓くんです。最近急に暑くなってきましたね。早く外出できるようになって夏服を買いたいものです。

今回は経済学の手法を使って、日本の企業でなかなか私服勤務が普及しない原因を読み解いていきたいと思います。所要時間は5~10分程度です。

1.まずは意思決定について考えよう

皆さんは服装を選ぶ際、どのようにして意思決定をしていますか?今日は気合を入れたい、とか今日は適当でいいなどの意思決定を日々行っていると思います。

こうした意思決定を経済学では、Xという意思決定を行った人は、「Xをしたときに得られる便益が、他のYをして得られる便益よりも多かったためXをするという意思決定を行った」と考えます。

職場での服装のケースで言うと、スーツを着る人は、スーツを着ることで得られる便益がオフィスカジュアルを着ることで得られる便益よりも多いということになります。

この考え方は、経済学を用いて意思決定を分析する場合に時々利用する概念になりますので、覚えておくといいかもしれません。

2.周りの人が着ていないから?

では、行動経済学的側面からに私服勤務が普及しない原因について考えてみましょう。

あなたが今オフィスにいる所、あるいは就職活動をしている所を想像してみてください。あなたのまわりにスーツを着た社員はどれくらいいるでしょうか。また、私服やオフィスカジュアルで勤務している人はどれくらいいるでしょうか?

因みに私の職場にはほぼいません。

もしあなたの周りの人がほぼ全員スーツを着用している場合、自分も私服を着用したいと思うでしょうか?
おそらく着用したいとは思わないはずです。

これは行動経済学的に考察すると、多くの人が「社会規範」を意識することによるものと考えることができます。社会規範というのは、多数派が行っている行動のことで、社会規範を正しいものと認識してしまうことで、周囲に合わせてしまうというものです。

したがって、周囲の社員や学生がスーツを多く着ていると、それを社会規範として考えてしまい、それに従ってしまうことで、私服勤務が浸透しないということができます。

伝統的経済学で想定される人間を考えると、着心地やおしゃれによって得られる効用が高くなり、スーツは減ると考えられそうですが、行動経済学的に考えると、社会規範という変数が意思決定に影響を及ぼし、他人とズレたくないという思いからスーツを着るようになるのです。

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3.今のままがいい。

さて、もう一つの可能性としてあげられるのは「現状維持バイアス」です。
これは、現状から自分の状況を変化させること自体を嫌う性質のことです。名前の通りですね。

皆さんは大学の授業で、席の指定がなくてもずっと同じ席に座り続けていませんか?そうです、これも現状維持バイアスです。

服装のケースで言うと、現状維持バイアスが働き、「今スーツを着ているから、スーツからオフィスカジュアルに変えること自体が嫌だ、このままがいい」という思いでスーツから服装が変わらないことが考えられます。

こういった人たちは、服装を替えることによって現状が変わること自体に大きな心理的なコストを感じるわけです。

~してないのはあなただけ?

この社会規範は先行研究でも知られています。イギリス政府のBehavioural Insight Teamというチームが行った研究を紹介しましょう。

彼らの研究では、当時イギリスで起こっていた税金を期限内に納めないという問題を解決するために5つのメッセージを用いて、効果的な政策を考察しています。

国民に対してランダムに送られたのは以下のメッセージです。対象者はどれか1つのメッセージを受け取ります。

(1) 10人中9人は期限内に税金を支払っています

(2) イギリスでは、10人中9人は税金を期限内に支払っています

(3) イギリスでは、10人中9人は税金を期限内に支払っています。あなたは現在、まだ納税していない非常に少数派の人になります

(4) 税金を支払うことは、私たちみんなが、国民健康保険や道路、学校などの重要な社会的サービスからの便益を受けることを意味します

(5) 税金を支払わないことは、私たちみんなが、国民健康保険や道路、学校などの重要な社会的サービスを失うことを意味します


さて、最も効果的だったのはどれだと思いますか?





正解は(3)です。
これは今回のテーマ「社会規範」を用いたメッセージになります。さらに(3)は(1)と違い、社会規範を知らせ、かつ少数派であることを認識させるメッセージです。

したがって、人々の行動変容を促したい場合には、自分が少数派であることを認識させれば人々の意思決定が変わる可能性があります。

最後に

今回は経済学的な観点から職場の服装について考察してみました。まだまだいろいろ経済学的に考えることができるものは皆さんの周りにもあるはずです。探してみましょう。

参考文献
Michael Hallsworth, John A. List, Robert D. Metcalfe, Ivo Vlaev (2017)” The Behavioralist as Tax Collector: Using Natural Field Experiments to Enhance Tax Compliance”, Journal of Public Economics ,148,14-31.

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