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お店、という創作活動。

劇的に、違うものなんだなぁ。

今までの引越しは、仲介業者さん経由で賃貸契約した部屋に住んで、周囲の店を開拓して図書館に通って、友人や身内が訪ねて来た時に案内するようなスポットも見つけて…でも結局は室内でずっとこもって1日も外に出ないことの方が多い生活で、数年経っても知り合いどころか顔見知りくらいしかできず、それも、よく行くお店の人と皮膚科と耳鼻科の先生だけ…というのが普通でした。

物件や住む町を探す際のポイントは今までだいたい、「家で仕事をするので住みやすい環境であることと、周辺が程よい観光地で人の出入りなどが常にある、風通しの良い地域であること(自分が悪目立ちしないように)」。

今回、そこに加わったのは「家で仕事をしながら、建物の一角で小さなお店をする」という点。

たったそれだけの違いなのに、お店をするとなると、自分が何をどうしたいのかを会う人ごとに伝える必要があって、自分は何をしている者か説明する場面も増えて、目立たぬように暮らそうとしたこれまでとは真逆のことをしていて、同じ引越しなのに、びっくりするほど見える景色が違って、自分自身が別人になったような気さえする。

今回も、当初は仲介業者を頼って店舗付き物件を探して、候補地だった関東と山陰の4県の数カ所、結構な旅費や日数をかけて見に行ったものの全滅で、最終的に地元からほど近い県の自治体の空き家バンクでお世話になり、相談員の方の人柄にも背中を押されて話を進めることができたのでした。

そっけない対応をされると、自分がつまらない人間のように思えてどこか卑屈になってしまうものだけど、自分を認めて評価してくれる人の前では、なんだか歯車がうまく回って自然に振る舞える気がする。それまでやり取りした不動産業者さんは私の話を右から左、だったけれど、この町では窓口になってくれた方に初めてちゃんと聞いてもらえて、歓迎ムードが何となく伝わってきたのでした。相談員の方とは三度お会いしましたが、何だか「尊敬する大学時代の恩師」のようだなぁ…と(私の主観です)。

その後、お目あての物件の大家さんに手紙を出すところからはじめて(条件に合わない私を住ませてもらえるよう、自己紹介をして熱意を伝えるために)、直接電話やメールでやりとりを重ね、契約前にはご自宅を訪問して、麦茶とお菓子をいただきながら愛犬の写真を見せてもらうなどもして「遠縁の親戚」くらいの距離感に(これも私の主観ですが)思える温厚さに救われ、無事契約。

築百年ほどの物件なので、修繕工事などを担当する会社の方とも何度かお会いして、直接困りごとの相談などもして、その方もまたいい人で、年齢も近い?せいか、「幼い頃時々遊んだ従兄弟」のような親しみやすさを覚えて(あくまで私の主観ですが)心強い。

さらに、一軒家を借りたことで、ゴミ出しなどの関係もあって自治会に入り、近隣のお寺の行事に参加したり、付近の飲食店や雑貨店など観光マップへの掲載加盟店の会(のようなところ)に連絡をして、その流れで有志の集いに参加して会場で色んな店主さんにショップカードを配ったり、逆にお店のフライヤーなどを預かったり。二ヶ月足らずの間に、普段の一年分くらいの人に会ったような気がします。

思えば、この町へ来て一坪の店をすることも、自己アピールをしたり、積極的に出かけたり、本来苦手な人付き合いをするのも全部、「創作」だと自分で思っているから出来ているのかもしれません。話題のライブ・ペインティングのような華やかでスピード感や緊張感のあるものではないし、個展会場に多くの人が見にくるような短期間のイベントでもないけれど、「時間をかけてゆっくり何かを生み出して一坪の店内で発表する。そしてその奥で普段通り仕事したり創作したりし続ける」という一連が創作行為なのかな、と。

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お店のことは、ネットで大々的に宣伝をしないと大家さんにはお伝えしていて、そもそも商売っ気自体、ほとんどないけれど、まぁ自作のポストカードやZINE、おみくじなどに反応があるか知りたいのと、仕事でたくさんもらう雑貨のサンプルをどうにか有意義に?手放したくて、「くじ引き」の景品にしてみようとか、両親が他界して実家の整理をした際に捨てられなかった遺品のうち、味はあるけど値打ちのないものを飾って誰かと懐かしさを共有したい、というような気持ちはありました。

そして、もう一点は、この地域の歴史(民俗)にまつわる調べ物をしたいという目的があり(もともと山陰地方でそれをしたかった)、地元の人やタウン誌などに関わる人、役所関係の人から情報を得たいという下心から、店をすれば地域にコネクションを作れるかな、と…

なので、地元ではある程度アピールする必要はあるものの、ネットで全国の不特定多数に向けて宣伝する必要は全くないよなぁ…と思っていたのですが、そうではないかも、と最近気づきまして。

「お店をすることは、まちの風景を作ることでもある。そして、その地域の未来をつくることでもあるかもしれない」

というようなことを、この前、近くで不思議な魅力のカフェを経営されている店主さんが話しておられました。

確かに、高齢化が進む現代では、地方の町は同じような課題や心配事を抱えていて、それは、物件探しを通して、他の地域でも目の当たりにしたことでした。

人気観光地、の少しはずれに位置するこの町でも、高齢化や子育て世代の減少は私の想像よりもずっと深刻なようで、だからこそ、築百年の味のある物件を、フリーランスの私が借りられたのかもしれません。大家さんが建物をそのまま大事に残そうとされなければ、とっくに、この古家は外観だけ残して中をリフォームしてゲストハウスになっていたか、あるいはすっかり取り壊されて、何とか工法のつるっとした綺麗な集合住宅になったりしているかもしれません。この地域では、古い家をうまく利用して観光客を迎え入れるカフェやショップがかろうじて町の歴史を感じさせる風景を保っているけれど、それでも数年前の観光マップはもう、使い物にならないほどお店関係も入れ替わりが激しいらしい。

そんなわけで、お店をすると決めたからこそ知り合えた人たちの話を聞いているうちに、私は自分の城を確保して満足してる場合じゃないな、これから町の風景の一つになるんだな、とほのかに自覚するようになりました。

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今、よそ者の目で見てとても新鮮に、素敵に思えるこの町のゆったりした空気を守るために、お店を通して(店主というキャラを演じることによっても)何かや誰かに関わっていきたいなと思っています。どうすればいいのか今は分からないし、生計を立てるために普段の仕事もこれまで通りしていかねばならないけれど。

当初は伏せるつもりでしたが、今後ここでも、この町がどこか、という話を書くかもしれません。

「noteを見て、この店に来ました」なんてことは期待しないけれど、観光地であるこの地域に来ると決めている人に、「そういえば、ネットで見たけど、あの辺まで歩くと面白そうだな」と、ついでに思い出してもらって「少しはずれ」のここいら辺と、さらに先のあたりまで足を伸ばしてもらえたらな、って。

そして本日、お店をオープンしました。

記事はここまでの予定でしたが、追伸。

早速お客さんが来られて、いくつかお買い物をしてゆかれました。

私と同じようにこの辺の空気感を好む人がいて、わざわざ何にもなさげなところを歩いて「何か」にひょっこり出会うのを面白がる、まるで自分のような方が、偶然お店を見てふらっと立ち寄られたようです。「ずっと前からここにあるお店のようですね」と仰ってました。

胡蝶蘭や祝電などより(そんなものは届いていませんが)、そのお客さん第一号のお言葉が何よりの開店祝いになりました。

(画像はハニホ堂つうしん。フリーペーパー風だけど50円します)

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※お店をオープンするまでの話はnoteでマガジンにしているので、「小商い」予定の方、引越し予定の方はよかったらどうぞ。