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言葉と挿絵。

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考えていることを、言葉で伝えようとしたアレコレ。
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心に貝柱。

竜宮城へ出かけたわけでもないのに、気づいたら歳をとっていた。 少し年上の石田ゆり子さんや西田尚美さんの軽やかな佇まいを見ると、何となく自分まで若々しい気分になったりするけれど、自分より少し下のマツコ・デラックスさんやジェーン・スーさんが「もうこの歳になると」云々、体や心境の変化や過去の経験を通して現代を俯瞰するような話をしてくれると別の意味でホッとしたり自分の幼稚さに気づいたり、友近さんが若い世代のことなど気にせず昭和や平成初期の時代風俗の話をされる様子に心ほぐれたり、自分の

転職23回のひと。

知り合いの 「ねんきん定期便」を見せてもらった。 コーヒーを淹れてもらうのを待つ間、「まぁこれでも見てて」というような軽いノリだったのだけど、思いがけず読み応えがあって姿勢を正してしまった。 その人、Zさんは転職ばかりする人で、親からは「あなたは何やっても続かない」と長年言われていたそうで、私も「えっ、こないだ入ったとこもう辞めたの」「また求人誌見てるの」などと密かに思ったり、直接口に出すこともあった。 たとえば恋多き女というのか、次々に相手が変わる人がいるけれど、Z さん

妖怪とわたし(その2)

1.かわいい妖怪の絵(しん板お化けづくし) 前回につづき、妖怪柄の千代紙を買ったのがきっかけで自分でも描いてみようと参考を探して眺めているのですが、やっぱり楽しいなと思うのは、おもちゃ絵(玩具絵)で、さらにその中でも生活道具や食べ物が変化した「つくも神」です。 下の画像は国立歴史民俗博物館で買ったポストカードで、絵もいいんだけど文字もよい。下から2段目左、こづちの顔が好き。上から2段目右から2つ目、タコとその左隣の「お供え」もかわいい。宴会芸をするダルマも絵になる。 ネッ

妖怪とわたし(その1)

はじめに 今年も蚊帳を出しました。 昔ながらの吊り下げ式じゃなくて、変なレースがついた安価なワンタッチドーム型の蚊帳ですが、毎年夏の夜は行灯風ライトで杉浦日向子さんの『百物語』や地方の民話、そして水木しげるさんの怪奇ものを読み返したりします。蚊を避ける目的にとどまらず、薄い繭の中にいるような安心感と異空間にトリップするような不思議な心地がするというか。 数ヶ月前、包装紙のお店Regaro Papiroさんで買ったハギレ千代紙の中にかわいい妖怪柄があって、小さいのでただ飾っ

神様じゃなくても誰かは。

4月の初旬、とてつもなく風の強い日があった。 燃えるゴミの日だけど飛ばされそうなので出すのをあきらめ、仕事の締め切りもあって終日部屋で過ごし、天候が回復した翌日の日暮れ近くになって「さて食材でも買いに行くか」と外階段を降りかけたところ、思いがけないことが起きていた。 アパートの敷地と門の外(私道)の広範囲に白っぽいゴミが散乱していて、そのほとんどが使用済みの生理用品(丸めてテープで閉じられたものと、ベロンと開いてしまっているもの)と使用済みの不織布マスクと使用済みの大量のテ

3月10〜11日、福島県へ。

先日、一泊二日の旅をしてきました。思いがけない出来事があるという点で、旅は人生に似ていると実感したので、忘れぬように振り返ってみます。 1.出発まで 福島県を初めて訪れたのは2016年。会津若松への旅だった。 2010年の終わりごろから、旅の本「ことりっぷ会津・磐梯」を買って旅を計画していたところ震災が起こり、泊まりたいと思っていた東山温泉の旅館が営業を休止して福島第一原発の付近から避難した方々を受け入れられることになり、おかみさんが日々発信されるブログを見に行くようにな

自分を応援する。

頭の中で「こんな感じ」と思い浮かべたり、自分が好きな感じの絵がいつまで経っても描けない。 世の中には好きな絵や立体作品がいくつもあるのに、自分が何かを描いたり作ろうとするとどれにも全く近づけないというか、こうしたい、こうありたいと思う何かに気持ちは近づこうとするのに同極の磁石が反発するように寄っていけない。 なぜだろう。 冷蔵庫の中の材料でチャーハンや親子丼を作る時なら「想像通りか、想像したより結構美味しいorイマイチ」と誤差は少ないのに、絵や物づくりでは頭でイメージしたこと

いつも心に世界地図。

今年は世界のことを意識する場面が多いというか、世界地図を目にすることが多い一年でした。 今回は世界地図をおともに2023年を振り返りながら、最後に自作の世界地図イラスト(トップ画像はその一部)を載せるので、終わりまでズズッとご覧いただけたら幸いです。 ・コーヒーまずは、先日訪れたカフェ(京都市動物園併設)の壁にコーヒー豆の産地を示した世界地図がデザインされていて、「赤道付近に産地が集中しているのが分かりやすいな」と写真を撮ったつもりが保存し忘れて残っていなかったので、自分で

運命の部屋。

小学生の頃、こたつでテレビを見ていると、目の前をねずみが横切り、ふすま 沿いに走ってゆくのをよく目撃した。 夜の飲食街の裏手で目にするドブネズミとは違い、彼らは小さくて白くて顔はシルバニアファミリー風だけど、その可愛さが却ってこわい。 家族が寝静まった夜間に何かを(食品に限らず電気コードなども)ちょっとずつかじっていく、その痕跡を朝見つけるのがまたこわい。 母は当時、彼らの話をするときは盗聴器でも警戒するように「ネー子ちゃんが」と声をひそめた。とくに駆除剤については本人(人で

その気持ちはどこへ向かう。

理不尽なできごと1回ごとにスタンプを1つ押してもらって、ある程度たまったら何か小さな幸せに交換できるシステムが人生にあったらいいのに。 ***** 昔、仕事関係の団体で海外出張に出かけた時のこと。 私はその団体に所属しておらず、単発で関わるだけのフリーランスだったので、その場にいる人に満遍なく愛想よく、かつ控えめに振る舞おうと気を張っていた。 その中の一人が空港でパスポートを忘れたと気づき、後の便で追いかけてくることになり、その人のお仲間さんと(一人参加の)私が隣同士で

お金は物差し。

たとえば粘着コロコロクリーナーが売り場で複数あって安い物を選んだら、そちらにはカットラインがついていなくて斜めにビリビリになって使いづらく「高い方を買えばよかった」と落ち込んだり、安さにつられて買った食品用ラップが薄くて破れやすくうまく引き出せず斜めに切れて何周も無駄にしたり。 何かの値段にはそれなりの事情があるとは想像できるものの、謎は多い。なぜその値段なのか。本当はどの程度が妥当なのか、自分はどの値段の何を選ぶべきなのか。今回はそんなことに思いをめぐらせてみた話を。 1

6月は優しい。

雨の季節になった。 今住んでいるアパートは小さな二階建てで、一階ごとに一部屋しかないため、私ともうお一人だけで満室状態だけど、敷地内にある大家さんのお宅(外階段があるアパート風)の二階にも住んでおられるようなので、店子は3人ということになる。 入居の順は、下の階の方→、私→大家さんの二階の方なのだけど、以前、その二階の部屋には赤い傘を使う女性が住んでいた。 姿を見たことはないけれど、私が引っ越してきてわりと間もなくその人が退去して空き家になって、郵便受けの名前を外して「のっ

凶について考えた(おみくじと易)。

1.おみくじ のこと 2019年にこんなZINE(お寺などでよく見かける、ある系統のおみくじを全種類載せて自己流にゆるく解釈したもの)を作った。 きっかけは、2014年か2015年頃のお正月に、身内が下の画像とほぼ同じ挿絵のおみくじを引いたのをチラッと目にして、だけど本人がすぐに結び所に行ってしまって詳細が見えなかったので、以来ずっと「なんであんな物騒な場面の挿絵がついていたのか。あのおみくじには何が書かれていたのか」が気になって、その時引いたのと同じ系統のおみくじを探そ

思い出散歩。

先日京都に帰省して、大阪、兵庫、奈良にもちょこっと寄ってきました。 どこも人混みがすごくて、あまり身動きは取れなかったけれど、静かなお寺の内陣に入って鎌倉時代の運慶・湛慶親子の作だという大きな仏像を前にしたり、樹齢800年と伝わる神社の大楠に再会したりして(大枝がいくつも切られていて、かつての姿とは違っていたけれど)、自分が10回輪廻転生しても届かなさそうな、はるかな時代に思いをはせたり、何気ない風景に「ああ、あんなこともあったなぁ、あの時はああだったなぁ」など個人的でささ