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ステキなハガキのこと

 ハガキが届いて、びっくりした。

 このあいだ、時計の電池を変えたときの話をしようと思う。
 Aloma flatの時計の電池が切れて、ずいぶんと経ってしまった。
 主力のzuccaと、お出かけ用のスタージュエリーガールで事足りていたので放置していたのだけれど、やっぱりダメだと気がついた。君がいないと、なんだか元気が出ない。たかが時計で、代わりもあるのに。
 元気を出そう、と思って駅の反対側のお店に向かった。メガネとか宝石が売っていて、時計の電池交換もしてくれるらしい。以前に一度行ったら、すぐに直って感動した。あのお店に。
 夏の暑い午後だった。

「すぐに直りますよ」と言われて、椅子を勧められた。
 前回はお店の中を見て回ったのだけれど、途中で疲れてしまって(10分足らずだったのに)、それを覚えていたので今回は素直に座った。
 そうしたら、奥からメガネを持ったご婦人がお茶を持って現れた。
「電池交換だけなのに、なんかスミマセン…」と、小さい身体をさらに小さくして、けれどもお茶を飲んだ。

「ご近所なんですか?」
「ええと、1年半くらいです」
 問われて、ぽつりと答えてゆく。
 それから、お気に入りのネイルと、左手の指輪を褒めてもらった。

「お仕事は? 何をなさっているの?」という質問に、あんまり意味はなかったと思う。
「土日休みなの?」とか、言葉にすると根掘り葉掘りなのだけれど、ぜんぜん掘られているような感じではなく、かろやかな風のように、わたしたちはおしゃべりした。

 それはなんだか、心地の良い時間だった。
 最近は、プライバシーとか個人情報とか、いろいろあって、こんなふうに突っ込まれることは稀で、なんだか懐かしい感じで、不思議と嫌な感じが全然しなかった。
 今度、宝石のガチャガチャを設置することがあると教えてもらい、「それはぜひに」と伝えたら、「DMでお知らせした方限定なんですよ」というので、住所を書いてきた。

 そうして届いたのが、このハガキだ。
 それは、宝石のガチャガチャのお知らせなんかじゃなくって、「このあいだはありがとうございます」「時計は順調に時を刻んでいますか?」という挨拶だった。
 ハガキの半分にイラストと、もう半分はキレイなペン字の、手書きで。


 どれだけか言葉を尽くしたら、このあたたかさを表現できるだろうか。
 冷たい水の中に広がってゆく、お湯みたいに。
 じんわりと溶けてゆく。

 理想の生き方があるんだとしたら、わたしもあんなお店で時を刻みたかった。来てくれた人とお茶をして、お礼のお手紙を書きたかった。そんなふうに暮らしたい、という思いを、そおっと撫でてもらった。そのことが嬉しくて、わたしはまた言葉を紡いでいる。
 あんなにすてきなお店とハガキになれたら、どれほどよいだろうか。



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