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生まれ変わったら、シーツになりたい

生まれ変わったら、シーツになりたい

と、思っていたことがあった。
大学1年の頃だ。

柿生に住んでいた、最初のひとり暮らしの家。
静岡から両親と一緒に大学の近くまできて、探した家。
駅から少し離れていて、1本通りを入ったすぐのところにある。

すごくふつうのワンルームだった。
廊下の途中にキッチンと、ユニットバスへのドアがあって、6畳のワンルームがある。
2階建ての2階。
隣は駐車場。

当時はベッドを持っていなくて、ふとんで暮らしていた。

洗濯機はベランダにあって、
そのあと5回引っ越しすることになるけど
この家のベランダがいちばん広かった。

晴れた休みの日……
大学生だったから、休みの日だったのか
わたしのことだから、講義に行く前に洗濯なんてしないでしょうから
講義のあと、だったかもしれないけど
晴れた日はシーツを洗って、ベランダに干していた。

最初の家で使っていた、緑色で、少し芝生みたいな葉っぱの絵が描いてあるシーツ。
ふとんカバーはおそろいで、羊の絵が描いてあった。

シーツを干しながら、足元をベランダに向けて、ごろんと仰向けになって
わたしは、ベランダを見ていた。
緑色のシーツが、気持ちよさそうに揺れているのを、何度も

「ああ、生まれ変わったら晴れた日に干されるシーツになりたい」

そんなことを思っていたことを
いまでも、シーツを洗濯するたびに思い出す。

あの家には1年しか住んでいなかったから、
あの家に残る、数少ない記憶のひとつだ。
だってもう、10年以上前になる

いまでも、あの瞬間のすこやかな気持ちは、わたしの中にある。

いまの家は、ふとんを干すのがちょっと面倒なんだけど
(ふとんからベランダまでの導線とか、物干し竿が高い位置にあって、椅子が必要だとか)
そろそろ、冬用のシーツをひっこめたくて、えいっと洗濯をした。
やっぱり少し面倒だったけど、頑張ってみてよかった。

今日も、あの日のすこやかさを、思い出している。


photo by amano yasuhiro
https://twitter.com/hiro_57p

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