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寂しさと、出会わないように。

晴れの隙間を狙って、IKEAに行った。

この瞬間を待っていた、
枕を買うことは、もう決めていた。
ふたつめの枕。
抱きかかえる用の枕、転がすようの枕。
ふたつあるって、なんて美しく自由なんだろう。
想像するだけで、うっとりしてしまう。

枕を買うなら晴れの日だ、と決めていた。
それが今日。ついに今日。
わたしはうきうきとIKEAに向かい、目当ての枕を手に取った。
ひとつめの枕と同じものを買う、と決めていたから迷わない。
浮かれて、ピンクの枕カバーを選ぶ。

あとは、タッパー。
黄色い蓋で、適度な大きさで、3個で100円のIKEAのタッパーを気に入っている。
値段が気軽すぎるから、安易に友達に貸して、家の残機が減っているんだった。

今日の買い物は以上、と思っていたのに
わたしはふらふらと流れてゆく。
行き先は、時計のコーナー。

家には、もう充分なくらい時計がある。
数にすると信じられないけど、もう4つの壁掛け時計がある。

それなのに足りない、と思っていた。

自室の壁掛け時計は、ウォールハンガーに引っ掛かっている。
引っ越し当初、何も考えずに設置したんだと思う。
せっかく備え付けのウォールハンガーがあるんだし、なんていうのは、わたしの考えそうなことだった。

何度かの模様替えを経た結果、デスクはウォールハンガーとは逆の壁側に設置された。
つまり、壁掛け時計を見るために、わたしは振り返らなくてはならない。
いままではデスクの上に引っ掛かっている腕時計を見ていたのだけれど、小さな盤面を読むのはなんだか面倒な気がして。

300円にも満たない時計を見つけて、手に取る。
信じられないくらい軽くて、びっくりする。
「これなら、捨てるときにも困らないかもしれない」
そんなふうに思って、この時計を連れて帰ることにした。

寂しくなることは、わかっていた。

ウォールハンガーの時計を、デスク側に動かすことは簡単だということも、わかっている。
でもきっと、寂しくなる。
わたしは何度もウォールハンガーを見つめて、時計がないことにがっかりするんだ。

6畳の部屋に、壁掛け時計が2つあるのはおかしいかもしれないけれど
寂しいよりはいいじゃないか。
だから、新しい時計を買うことに、迷わなかった。

些細なことでも、すぐに寂しくなる。

使い古したタオルやハンカチを捨てることも
お気に入りのネイルを落とす瞬間も
マグカップからコーヒーがなくなることも
散り際の花を美しいと思う反面、寂しく思うわたしがいる。

季節が去りゆくのも、太陽が沈むのも
夜が明けるのも、いつだって

だから買い足した。
だから、お別れも怖くないように、手軽な時計を買った。

冒険を愛している。
「この先、危険」と書かれている字が、赤く太いほど、わたしの心を躍らせる。

それなのに、同じくらい
時折、それ以上に寂しく思う。
失われることや、変わってゆくことに。

だからこそ、「寂しさ」を言い訳に決断をしたり、足踏みをしないと決めている。
決めていないと、寂しさが放つ引力に、立ち向かうことができない。
立ち向かって決断しないと見誤る、ということには気づいている。
立ち向かうことには力が必要だから、時折こうして回避する。
寂しさと、出会わないように。

でも、「寂しい」と思いながら、唇の橋をあげて笑う、わたしという存在にも
末永く、生き延びて欲しいと願っている。




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