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今日の雨は、うすあまく

ごおっ、と音が響いた。
低い音。

最初はお向かいの家の、エンジンの音だと思った。
それは時間を問わず、定期的に響く。
大きなバイクの音。

ほんの少し考えて、「ちがう」と気づいた。
これは、エンジンじゃない。
ーーーかみなりだ

雨はまだ、この街に訪れていない。

静岡に住む友達が、「かみなりだ」とつぶやいていたのを見たのは、少し前のことだった。
そのあいだにわたしは懸命に漫画を2冊読んだので、けっこうな時間が経ったと思う、

そうしてわたしは悟った。
ああ、静岡に訪れた雲が、びょおと流れて、この街にもやってきたのだ。と

静岡という場所で育った。18歳まで
故郷に対する思いを、わたしはいまでもうまく表現することができない。
好きなのか嫌いなのか、と問われても困る。
帰りたいか、と問われても、かつてのような強い意志で「帰りたくない」とも思わない。

ただ、友達と母親の住む街のことを、わたしはいつもあたたかい気持ちで見つめている。

そうか、君は静岡から来たんだね。
あの街の様子はどうだい? 悪くないといいな。
あっちではもう、雨はやんだのかな。

こちらでは、強い雨が降り始めた。
今日はもう外出の予定はないので、ただただぼんやりと雨を見つめる。

故郷を越えてきた今日の雨は、
なんだかあたたかく、うすあまい匂いがするような気がしたんだ。

それはほんの少しだけ
でもたしかに、わたしのこころをゆるやかに溶かしてくれるような匂いだった。


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