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最後に残るのは、

夢を見た。

なぜか、TripGirrrrl氏と一緒に
渋谷の、asiaとかO-EASTとかあるあの通りで
列から抜けて、歩き始めたところ、昔の恋人とすれ違った。

向こうから、「おお、久し振り」と声をかけてきて
そのまま通り過ぎていった。
久し振りだったけど、交わす言葉はそんなもんか。と思った。
そのことだけを記憶して、目を覚ました。

昔の恋人、と呼べる人はひとりだけだ。
初めての恋人で、確か6年くらい付き合っていた。
大切な人だから、あんまり心配をかけたくないと思い、
大切なことを話さずにいたら、どうでもいい人になってしまった。
わたしが、勝手なことをしたと思っている。
別れてからは、一緒に出演が決まったライブ以外では会わなかった。
それは別れたすぐあとのことで、あれから一度も顔を合わせていない。
それもまた、6年ほど前のことだったと思う。

最後に残るのは、姿だろうか、それとも声だろうかーーー

声と姿の言葉の並びが逆だったかもしれないけど、
わたしが必ず無人島に持っていくと決めている漫画、
羽海野チカ先生の「ハチミツとクローバー」のセリフだ。

昔一緒に音楽をやっていた相方は、
「昔の恋人の顔が思い出せない」と言っていて、びっくりしたことを覚えている。
星の数ほど男と付き合ったとか、薄情な人とか、そういう人ではない。
ちょっと変わった人ではあったが、
いまではほとんど会わない、連絡も取らなくなってしまったが
連絡を取るたびに、おばあちゃんのような、深く、無償の愛情を与えてくれる人だ。

あれからずいぶん時が経って、
「昔の恋人」と呼べる存在ができて、もう何年も経つわたしになって、
ようやく、彼女の言い分がわかるようになった。

夢の中で、昔の恋人の、その声を、わたしは確かに聞いたのに
もう、思い出せない。
姿も、おぼろげだ。

もしかしたら、わたしの記憶力そのもののせいかと思い、
いろいろな友だちの顔を思い出してみた。
いま、頻繁に会っている友達はほとんどいない。

ひとりひとり、少しずつ思い出して
最初はいろいろおぼろげだったが、はっきりした。

そのひとの「笑顔」を思い出すと、声をセットで蘇ってくることに気がついたのだ。

笑顔で、わたしを呼ぶ声。
笑っている、あなたの笑い声。
そういうのをいくつか思い出してきたら、
困った顔でも、わたしに呼びかける声も、蘇ってきた。
ああ、だいじょうぶ。覚えている。

TripGirrrrl氏だって、最後に会ってからもう何ヶ月か経ってしまった。
でもやっぱり、スタバでけらけら笑いながら話した夜、
一緒にピアスを作ったりしたあの夜を、しっかりと思い出せる。


昔の恋人と別れたあとの「6年」という年月よりも、
その、記憶の質の問題のような気がする。
彼との楽しかった記憶を、わたしはそのまま抱え続けて、生きていくことはできなかった。
だからもう、顔も声も思い出せない。


人間の記憶って、よくできてるな。
それでいいんだと思う。
だからわたしは、同居人が鬱病だったときのこと
今だからこそおもしろおかしく話だってしてみたいのに
あのときのことも、もうあまり思い出せないのだ。


それでいいんだと思う。
たくさんのものを連れて、生きていけないのならば
やさしい記憶を頼りに
いま、わたしが直面している問題や、悔しさに全力で向き合って
「何が苦しかったか忘れちゃったけど、あのとき乗り越えられたんだ」て
そのことだけ、
あなたの笑顔だけ、わたしを呼ぶ声だけ、
わたしは覚えていられたら、きっとそれで

この先の何十年かを、生きて、乗り越えていけるような気がする。

photo by @TripGirrrrl

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