見出し画像

百年後には、誰もいない

百年後。誰もいなくなるかもしれない、ということを
最近、よく考えている。

先日、鷺沢萠さんの「ハング・ルース」の話をした。
わたしのアカウント名に使わせてもらっている、たいせつな
本当に大切な小説。


鷺沢さんは、わたしが高校生のときに亡くなった。
そのわたしはもう三十代となり
もうすぐ、鷺沢さんの年齢に追いつく。

この記事を書いたとき、「推しの宣伝」と思い、Amazonのリンクを貼った。

気づいていた。
気づいていたよ。

価格は、1円から
それは、「新品の商品がなく、中古のみ」を意味する。

鷺沢さんと、ハングルースがなければ、いまのわたしはなかった。
わたしは、たくさん救われた。

でも、わたしはもう、
いや、わたし以外のすべてのひとも
もう、鷺沢さんの新作に出会うことはできない。

そして、死後10年以上が経過し、
彼女の作品を、新品で入手することは、難しくなっている。

Amazonの「この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています」の欄に、他作品の掲載もあったけれど
新品取扱は、1作品だけ。

スクリーンショット 2020-06-24 11.11.17

その1作品も、文庫版なのに2000円近くする。
数が少なくて、希少価値が上がっているんだと思う。


鷺沢さんの本は、もう作られていない。ということだ


当然のことだ。
既刊だけで、売り上げを保つことができない。
「売れる新作」があってからこそ、既刊が売れる。
「気に入ったから、過去の作品も読んでみようかな」と思う。

世界には、たくさんの本や小説が溢れている。
どれだけ鷺沢さんがすばらしくても、戦い続けることは、できない。
出版は、商売なんだから。
「商売の輪」に加われなかった作品は、静かに死んでいくしかない。

生きていれば
輪から外れたって、作り続けることができる。

わたしだって、このnoteでたくさんの売り上げを建てているわけではない。
無職でありながらも、「失業保険」というありがたい収入を得ながら、記事を書いている。


百年後には、誰もいないかもしれない


夏目漱石みたいに、百年経っても本屋さんで平積みされる作家さんもいるだろう。
ビートルズは、百年後でもCD屋さんで買えるかもしれない。
百年後に、本屋さんとCD屋さんがあるかわからないけれど

いま、溢れている芸術作品の中の
ほんの、本当にごく少数だけがきっと、百年後に残っている。かもしれない。


同じ時代を生きている、って
なんて尊いんだろう。と思う。

改めて思う。
スガシカオの新譜が買える時代に生きてよかった。
ライブに行ける時代に生きていてよかった。
わたしは、鷺沢さんが「スマートフォン」という言葉を使って描く小説を、読むことができなかった。


百年後には、誰もいないかもしれない。
そしてそれは、百年経たずしていなくなることもある、ということを意味している。
スガさんでいえば、突発性難聴になったことがあった。
あのとき、もし、
聴力を失っていたら、もうスガさんの新譜は買えなくなったかもしれない。

わたしだって、右手を骨折したときに「もう二度と、自分自身が愛したピアノは弾けなくなる」と覚悟した。
いや、覚悟はできなかったけれど
可能性を無視できなかった。それくらい、迫りくるものだった。
実際に、「自分自身が愛したピアノ」のいくつかを、当時捨てた。
持っていくことが、できなかった。
あれから何年か経って、”奇跡的に”そのときのいくつかを回収して、なぜかまだピアノを弾いている。
奇跡的に。あるいは、たまたま


同じ時代を生きている。
当たり前なんて、どこにもない。

人生をあんまり、「かもしれない運転」みたいにすると
なんだか不安でいっぱいになる、ということも理解している。

でも、わたしは忘れない。
これは、鷺沢さんが教えてくれたことだから。

わたしが鷺沢さんの小説を読み始めたのは、彼女の死後だ。
そのときようやく、17歳とか18歳くらいで、
鷺沢さんの小説を、理解できる年齢になったばかりだった。
鷺沢さんとわたしは、あんまり同じ時代を生きられなかった。


20代の頃にやっていた自分の音楽活動、バンドやユニットは
現在、すべて休止や脱退をしている。
バンドの解散なんて、よくある話だ。
ひとつひとつは、身の切るような痛みだとしても

ありふれている。


解散ライブになってようやく、「寂しい」と気づくこともある。

でも、明日も明後日も
あなたの新作に出会いたいならば
あなたのうたが聞きたいならば
歌い続けて欲しいと願うならば

同じ時代を生きている人を、大切に生きていきたいと思う。


photo by amano yasuhiro


スタバに行きます。500円以上のサポートで、ご希望の方には郵便でお手紙のお届けも◎