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「それでも、服を作る」と言った蘭堂のこと

もうすぐ、朝が来てしまう。
もやもやと考えてしまう夜は、蘭堂のことを思い出す。

安野モヨコ先生の「ジェリービーンズ」は、
無人島に持って行くと決めている漫画だ。
(最近、シュガシュガルーンの新装版も買ったので、それも持っていきたいと思っている)

モヨコ先生が「なかよし」で連載していたこの作品は、おとなになってから出会った。
わたしの10代のときの読み物は、サンデーとマガジンだったので、少女漫画はあまり読んだことがなく、
二十歳からしばらく付き合っていた恋人が、「美人画報」と「ハッピーマニア」を貸してくれたのが、モヨコ先生との出会いで
それから自分で、「ジェリービーンズ」を買ったのは、二十歳をしばらく過ぎたあとのこと。
何度引っ越しして、何度断舎離しても、本棚の片隅にずっとある。
これはわたしのバイブルのひとつで、いつだってお守りだった。

主人公のマメが、「洋服を作る」クソガキ中学生だった頃から、
専門学校に通って、デザイナーになるまでのストーリー。

専門学生になったマメは、
自分の作ったデザインを「次のコレクションから流行りそうなものを写しているだけ」と
バッサリ切り捨てられて、
地元の先輩で、既にデザイナーとなった蘭堂の元に逃げ込む。

話を聞いたあと蘭堂は、「海でも行くか?」と問い掛けたあとに
「うそだよ」「今日は逃げないで考える日だ」とマメを諭す。
本当に作りたいものはなんだったのか、個性とは……
答えの出ないマメに、蘭堂はこう言う。

「それでも、服を作る」

「好きだから作る」
「たとえ、誰も見たことのないドレスを発明できなくても」
「着たいと思う服を、着て欲しい服を、作っていくしかない」

安野モヨコ先生の公式ツイッターで、そのシーンを公開してたので、リンク貼りますね。

蘭堂のこのセリフと、
マメちゃんが過ごしたこの夜は、
ずっとずっと、わたしを支えてくれている。

なんでピアノを弾いているのか、
わたしのピアノは、わたしのピアノではなくて、「誰でもいいピアノ」なのかもしれない
わたしの個性とは
わたしでなくてはいけない意味とは

苦しくて溺れそう、
もはや溺れていたのかもしれないそのときも、
「それでも服を」と言ってくれた蘭堂を、何度も何度も思い出した。

いま、改めてこの言葉の意味を考えている。

いままでは、「溺れていても苦しくても作り続ける」という意味に受け取っていたけれど
そしてこれは正解のひとつだと確信している。

だけど、
「着たいと思う服」と「誰かに着て欲しいと思う服」が違ったら??

わたしが「着たい服」は、誰も着たくない服かもしれない。
「誰かに着て欲しい」と思う服は、わたしが作りたいものではないかもしれない……

いやでもさ、でもさ
そうだよ、マメちゃんならこう言うよね。

「わたしみたいなフツーの子でも、特別になれる服を作りたいだけだから」

そうだ、きっとそうだ。
蘭堂は「みんなに着て欲しい服」なんて、ひとことも言ってない。
「誰か」、そうだ、誰かに。

わたしはもうおとななのに、無責任かもしれないね。
おとななのに、逃げてばっかりだよ。

すごくかんたんなことで、
もし、わたしのこの記事が、ひとつ1万円で売れたら、わたしは無職のまま書き続けることができる。
1万円の価値を見出すためには、努力が必要で
それは、「作りたいもの」と離れてしまうかもしれない。

それにはまず、
「わたしの作りたいもの」の形をしっかりと把握して、提案することができれば。

マメちゃんは
作った服をいくらで売るか、で蝶子さんに怒られていたね。
生地代だけじゃなくて、型紙を作って直す、直すは「あんたのセンスでしょ」って。
それの価値は?って。

まず、「作品」に値段をつけなければ売れないし、
売れなければ、マメちゃんは生地を買えなくてお洋服が作れなくなる。
わたしは作ったものが売れなくても、文章は書けるしピアノも弾ける。
だから、今日も向き合うことができる。
でも、売らなければ、わたしはまたいつか、近い将来会社勤めに戻らなくてはいけない。

そして、わたしは会社、社会の中で何を対価に、何を得るのだろ。


ああ、今日は考える夜だ。

「それでも、服を作る」
何度でも、自分が作りたいもの、に向き合って
作ったものを、どうしていきたいのか、しっかりと見つめて。

そうだ、認めてしまおう。
わたしは、誰かの期待に応えよう、てあんまり思えなくって。
君のために歌うことはできても、
世界中のためには歌えなくて

薄情だなあ、と思う。
まわりと比べて、自分は
わたしだって、友達のことは好きだけどさ。
薄情だなあ、と思う。


ああ、それでも
「服を作る」だね。

みんなと同じ感覚でいられなくても、
みんなと共感できなくても
そもそも、みんなって誰だよ。

いま、もし
これはnoteだから、リアルタイムであなたと顔を向き合わせることはできないけど
この言葉を受け取ってくれた「君」が
少しでも読んでよかった、て思ってくれたら。
「ジェリービーンズ」っておもしろそうだな、とか
モヨコ先生の漫画買ってみようかな、とか
君の感情が、良い方向に動けば、わたしそれがいちばんいいよ。

そういう、
砂漠から星屑を見つける奇跡みたいな夜を
わたしは待ち望んでるし、出会いたい。

だから何度でも、
いくら答えが出なくたって、書き続けるんだ。

photo by amano yasuhiro

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