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日常
物事の陰のようなものは、音沙汰もなく近づき、次第に濃くなり、連鎖してゆく。
そのことに、わたしはもう気づいている。
何かよくない匂いを感じ取ると、部屋が散らかってゆく。
床にものが増えて、テーブルの隙間がなくなる。
洗い物も残されがち、
洗剤がなくなるのにも気づかない。
不思議だ。
最初の一手には、そんな匂いはなかったのに。
「あとにしよう」と、ずいぶんほがらかな気持ちだったし
「これは大事だからとっておこう」なんて、浮かれていたような気もする。
それなのに、
いつのまにかぐいと手を引かれ
(手を引かれたことにも気づかずに)
なにか色濃いものに、呑まれていってしまう。
*
そういうときは、ネイルも面倒になる。
落とすのも、塗り直すのも
次をどうしようかと考えることも。
そのうえ、爪を塗り替えるときのケアもめんどうで
ああ、もうぜんぶと連なってゆく。
それでもわたしは知っている。
てきとう、でもいいから
前へ
ざざっと爪を落として、ベースコートだけでも塗って。
そうしたら何か色を塗りたくなるから
ムラにならなくて、すぐ乾くやつを選んで
3分後にはこうしてエッセイを書いている。いま
30分前は、二度と書けないような気がしていたのに。
適当に塗ったか否かなんて、指先はおかまいなしなんだ。
どんなときだって、ネイルを落とせばきらきらしている。
これはたしか去年、わけてもらったかわいいやつ。
「買い損ねたネイルを、友達からわけてもらったらかわいかった」と言って、わたしにもわけてくれたやつ。
ああ、もうだいじょうぶだ。
とりあえず、いまは
きらきらする指先を見て、デスクの冷めたお茶を飲んで
少しずつ、なにかが整った。ような気がして、
騙しながらもおだやかに進む、日常の中に戻れるような気がしている。
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