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alinco_life
ホワイトソースのきのこ
フライパンの中で、きのこが踊っていた。
お鍋の代わりに使う、深いパンの中は
真っ白な海になって、ぐつぐつと煮えていた。
「なにをしているの?」と問われて、驚く。
何をしているって、そりゃあ
「見つめている」
ぐつぐつと踊り、泡が揺れる
揺れて、呑まれて、繰り返してゆく。
わたしはそれを、見ている。
ただ、静かに
見ているだけだった。
「シチューになるの?」と訊いたら、「ホワイトソースだよ」と返ってきた。
シチューとホワイトソースの違いが、よくわからない。
隣から現れたロールキャベツが、白い海になだれ込んでゆく。
「ホワイトロールキャベツになるの?」
「そうだよ」と頷かれ、「食べるかと思って」と言われたので、「食べるよ」と答えた。
*
ホワイトソースの海を漂うきのこは
しあわせ者だと思う。
生まれ変わったら、そんなきのこになりたい。
*
晴れた日の午後
ぴんと干されたシーツを眺めているときにも、同じことを思う。
いつも、最初に暮らした家を思い出す。
おふとんだけがあって、ソファーもベッドもなかったあの部屋。
お気に入りのひつじのシーツ。
芝生の緑に、ひつじが一匹。
ごろりと転がって、足元のベランダに浮かぶ、シーツを眺める。
生まれ変わったら、干されたシーツになりたいと思っていた。
*
たぶん、そういうことだと思う。
「人間は変わる」と言ってくれた人も
「根っこの部分は変わらないよ」と言ってくれた人も
どっちも本当だと思う。
ただ、わたしは変わらない部分として
ホワイトソースのきのことか
干されたシーツとか
そういうものになりたい、というのが
根っこの部分なんだと思う。
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