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新しいわたし

シャネルの口紅をもらった。

もらった、というと語弊がある。
友だちの部屋の「捨てようと思っているコーナー」に、それはあった。

わたしの何割かは、彼女からのお下がりで構成されている。
彼女が手放そうと思ったものは、一旦ストックされ、わたしの手に渡る。
わたしは新しいものがもらえて嬉しいし、彼女は「捨てる罪悪感」から逃れることができる。
わたしたちは、大変に幸福なウィンウィンの関係を、長いこと続けてきた。

彼女とわたしは、身体の作りまるっきり違う。
真逆と言っても良い。

彼女の髪は茶色く、わたしの髪は黒い。
彼女は背が高いし、わたしは背が低い。
彼女は「イエローベース」と呼ばれる秋のような深い色が似合う肌をしていて
わたしは反対のブルーベース。とにかく、赤みの強い肌で、青みのある色が似合う。

「化粧品やネイルは、わたしたちのうちどちらかは必ず似合う」と、ふたりでよく言っている。
肌の色が真逆だから、似合う色も真逆だった。

バーガンディーの口紅を手に取ったとき、わたしは悩んだ。

バーガンディー、
ごく暗いこの赤は、彼女に似合う色だった。
わたしは少し苦手な色だということは彼女も理解していたので、「これは捨てるつもり」と言っていた。

わたしは少し悩んで、「やっぱりちょーだい」とお願いした。
自分では絶対買わない色だから、この機会にほんとうに似合わないかを試してみたい。
もともと捨てる予定だったんだから、似合わなければ罪悪感を持てずに捨てればいい。

わたしはシャネルの、バーガンディー色の口紅を、持ち帰ることにした。

ダメだろうな、と思っていた。
自分の似合う色、については理解しているつもりだった。

似合う色を使うことが正しい、というわけではないけれど
きちんと似合う色を使っていると、顔全体がきちんと元気に見える、という事実は確かにある。
わたしは、おそるおそるバーガンディーを唇に当てた。

そして、驚いた。

思ったほど、悪くない。
きちんと、わたしに馴染んでいる気がする。
これは、良い。驚いた。
「口紅を塗っています」みたいな感じがしすぎずに、でもわたしの顔はぱあっと明るくなった。
これを、求めていた。

そんなまさか。
でも、事実だった。

最近ではこの口紅が、いちばんのお気に入りになった。

いちばんのお気に入りなんていうのは、定期的に入れ替わるものだけど、いまはこれがいい。
あのとき、捨てなくてよかった。
おかげでわたしは、新しい自分を知ることができた。

わたしは毎朝「悪くない」と思いながら鏡に向かってほほえみ、シャネルの口紅を握りしめている。




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