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初芝電機がぼくにくれたもの

転職回数が多いのをいいことに、いろいろな会社のネタを書いてきたが、はじまりの会社、初芝電機について何も触れていない。わたしは記憶の扉をノックする。ああ、このBGMが流れるのか。世界的メタルバンド、アイアン・メイデンの「The Wicker Man」。当時は新作だったこの曲のプロモが社員食堂で流される。

100年以上前に建てられたアホみたいに広い事業所。労働者の高齢化が進み、社員はおじさんばかり。みんな、ぽかーんとしてこの場違いな音楽を聞いていたと思う。初芝電機は、コングロマリット企業のため、系列に音楽会社もある。その余波がこんな古びた社員食堂にまで届いてしまった。思い出せるのはこんなことくらい。

あとは、入社式で本社ビルに行ったとき、なぜか自販機にパックのいちご牛乳しか売っていなくて、ふだんパックの飲料なんか飲まないものだから、エレベーターでいちご牛乳をぴゅーんと飛ばしてしまい、役職者っぽい人のスーツにかけてしまったことくらいだ。役職者のひとは「気を付けろ!」と言った。とんだモンスターが入社してきたものだと役職者の人は思ったことだろう。わたしもそう思う。

わたしは初芝電機に何も与えることができなかった。初芝電機もわたしに何も与えなかった。1年半、放置プレイがあった。外部からも内部からも力が発生しない。それはニュートンの慣性の法則を思わせた。3年、5年と、放置プレイはどこまでも続いただろうが、わたしは1年半で初芝電機を退職した。わたしは何か高尚な哲学書を書いているのだろうか。それくらい意味がわからない。

何もせず机に座っているのは本当につらいことだ。手にすることができるのは製品カタログとTOEICの参考書のみ。拷問を受けている感覚しかなかったし、今でいえばハラスメントだ。ただ、わたしが見ていた世界と他の社員が見ていた世界が交わっていない可能性がある。

20年以上が経ち、中堅社員となった今、ときどき何もできない社員の話を聞くことがある。何をやらせてもだめ。大事な仕事をまかせることができない。何かをやっているようなのだが、言われたことをやっている様子はない。あの人はいったい何をやっているのだろう。客観的に聞いていても、たしかに意味が不明。

わたしは「それは採用に失敗したね。たまにそういう人がいる。発達障害か何かじゃないかな」と答えている。
あれ……、その彼・彼女は、初芝電機のわたしではないのか?
正確な答えはこうなるのかもしれない。
「その彼・彼女は別の次元にいるんだよ」

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