見出し画像

私の部屋をノックしたのは

 先週日曜日の話である。
 夕食後、いつものようにnoteを徘徊していると、「トントン」と自室のドアをノックする音が聞こえたような気がした。
 コロナの影響で、施設では男女問わず利用者どうしの他室訪問は禁止されている。そのため自室を訪ねて来る者といったらスタッフさんしかいない。平日ならまだしも、祝日や土日は朝と夜の点呼の時以外にスタッフさんが部屋に来ることはほとんどない。
 「はーい」
 こんな時間に珍しいなあ。何かあったのだろうか。
 少しドキドキしながらドアを開けてみる。
 しかしそこには誰も居なかった。
 あれ?と不思議に思ったと同時に、若干の恐怖がこみ上げてくる。
 やはりこの施設には何か居るのかもしれない。
 というのも、昼間はまだ良いのだが、課題を片付けようと夜に4階のパソコン室に上がると、見えない何かが居るんじゃないかと思うようなゾワゾワした雰囲気を感じるのだ。それは私だけではなく、他の利用者さんたちもそう感じているらしい。
 歴史的にも長い施設である。そういったものがいても全く不思議ではないと思う。
 もしかしたら私の部屋をノックしたのは座敷童子しれない。怖いのでとりあえずそういうことにしておこう。

 「さっきさあ、部屋をノックされたような気がして開けてみたら誰も居なかったんだよね」
「何それ怖っ!」
「座敷童子でも居るのかねえ」
「まさか」
 だいたいいつも一緒に銭湯に行っている利用者仲間のSさんとそんな話をしながら階段を降り切った時だった。
「それ俺かも」
 玄関の鍵を開けてくれていたスタッフのNさんが言った。
「えっ?!」
 「荷物運んでて何かに当たった記憶はあるからたぶん俺だわー」
 Nさんのまさかの発言に、Sさん共々ビックリして思わず大爆笑してしまった。そしてほっと安心した。よかった、座敷童子じゃなくて…。
 この施設に居ると、たまにこのようなおもしろいことがあるからそれもまた良いのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?