一人で移動スーパーに行く
毎週月曜日のお昼前に近所に来る移動スーパーに、今日は一人で行ってみることにした。
昨年の4月頃から、我が家のすぐ傍の駐車場に移動スーパーが来るようになった。いつかそこに一人で行ってみたいなあとずっと思っていたのだけれど、その時の自分はまだ一人で外に出るのが精神的に不安だったので、なかなかそれができなかった。なのでそれまでは月に1度ヘルパーさんとの散歩の時間に組み込んでもらう形でその移動スーパーに行っていた。
それが今日、一人で行ってみようとようやく決心がついた。
というのも移動スーパーに行けなかったもう一つの理由が、我が家のすぐ傍というのもあって、祖母とニアミスするのが嫌だったからだ(ヘルパーさんと一緒の時は、我が家から少し離れたところに来る時に行っていた)。
その祖母も現在入院中なので、ニアミスする心配もないので一人で行ってみようと思ったのだ。
午前11時45分。移動スーパーがいつもだいたい来る時間の5分前に外に出た。早めに行った方が、まだお客さんも少ないので、スーパーの人に商品を見てもらいやすいだろうと思い早く出てみることにした。
ところがそんな時に限って、移動スーパーの音楽がなかなか聞こえてこない。
(あれ?今日は来ないのかなあ)
と半分諦めかけた丁度その時、遠くの方からその音楽が聞こえてきた。
少しほっとして私は家の敷地から道路に出た。
「あら、どっか行くの?」
家の敷地から道路に出ると、早速近所のおばさんから声をかけられた。
「あっ、はい」
移動スーパーの音楽が聞こえる方向に歩きながら私は答えた。こう見えて私はかなりの人見知りのため、このように知らない人から急に話しかけられるとうまく話せないのだ。
「おばあちゃんまだ入院してるの?」
おばさんは引き続き聞いてきた。たぶんおばさんは私のことを知っているようだが、私はそのおばさんが誰なのか分からない。普段から近所をうろついている方ではないので、こういうことはよくあることである。
「はい」
そんな会話をしているうちに、あっという間に移動スーパーの車の前に着いた。
そこにはすでにちらほら人が来ていた。声を聞く限り、叔母様が多かった。いやほとんど叔母様方だった。
「こんにちは」
少し緊張しながら私は移動スーパーの店員さんに声をかけた。
「この人全盲だもんでねえ」
さきほどのおばさんが私のことを周りに紹介しているようだった。
「はーい、こんにちは」
「あの、パン今何がありますか?」
挨拶してくれた店員のお兄さん(だと思われる)に、私は早速尋ねた。
「ちょっと待っててねえ、今パン出してるから」
それから間もなくして、パンの袋らしきビニールのガサガサという音が聞こえてきた。
「何系のパンがいい?」
「甘い系の菓子パンだと何がありますか?」
「甘いパンだとアンパンとか、森の切株とか…」
「じゃあアンパンで。あとペットボトルのお茶ありますか?」
時間がたつにつれてどんどん人が集まってくるだろうから、店員さんにお手数をかけないためにも、こういう時はちゃっちゃと決めるのが良いのだ。
「はい、ペットボトルのお茶ね。後は何が欲しい?」
当初の予定では明日の朝食べるパンと、作業などの合間に飲むお茶が買えればいいやと思っていた。しかし店員さんの親切な対応に甘えて、
「後は、お菓子、ポテトチップスとかってありますか?」
と聞いてしまっていた。
「ポテトチップスは、薄塩とか、ノリ塩とか、あと冬季限定ってのもあるけど」
冬季限定…。とんでもない言葉を聞いてしまった。私は限定ものに弱いのだ。
「じゃあ冬季限定のやつで」
こうして買う予定ではなかったポテトチップスまで買ってしまった。これは今週末に友人と会う時のおやつにしよう。
お金を払い終えて帰ろうと歩き出した時だった。
「そっちだと通れないからこっち」
と、さきほどのおばさんがまた声をかけてきた。どうやら広い駐車場で方向を取れなくなっていたようだ。
そのままおばさんに駐車場の入り口のところまで連れて行ってもらって、どうにか自宅に帰ることができた。
今回の買い物はほんの数分の出来事だったけれど、それでも一人で外に出れるようになるためのとても良い1歩になったと思う。来週の移動スーパーにももちろん行くつもりだ。