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君の推しは生きているか

生きているなら大事にしてください。
私の推しはどうやら死んでしまったようです。

気が付くと、推しが描けなくなっていた

やろうと思えば形はなぞれるでしょう。けれど、それは描けたとは言わんのです。

あなたが推しを描こうとする時、それは「こういう時に推しならこんな反応をして尊いだろうな」という、心に住んでいる推しを最高の形で外部へ出力しようとする試みでしょう。それは心に高揚を与え、世界に尊さを増やし、いずれ万病に効くようになる。

いつの間にか、長年心に住み着いていたはずの私の推しは、何処かへ立ち去って居なくなっていたようです。
そうしてもはや顔さえも思い出せないのです。

推しはこういう者でした

推しはコンシューマーゲームの主人公でした。
なお、コンテンツとしては新作もリメイクも数十年無くメディアミックス計画も立ち消え移植も噂が立った後音沙汰なしで【ほとんど死んでいる】状態です。
だから、SNS上のファンコミュニティが細々とファン活動をしているぐらいだったんですが、既に退社した主要スタッフのDが開発のこぼれ話を聞かせてくれるようになり、それが重要な供給になっていました。
Dはこぼれ話以外にも、シナリオに入れられなかった裏設定も込めた半分ノベライズのような小説を執筆したり、こぼれ話をまとめた書籍を作りたがったりと精力的でした。

ある日、推しがテレビに出た

それが終わりの始まりでした。

地方ローカルの深夜枠で、芸人さんが好きなゲームを紹介する番組だったと思います。その番組も今年か去年に終了してますが。
紹介されると聞きつけたファンもDもわくわくしながらテレビやスマホで番組視聴に臨んだのでしょう。

臨んだのでしょう。

放送終了後のSNSは「大荒れ」でした。
芸人さんのプレゼンに不満がある人、限られた尺や編集の都合もあるだろうと擁護する人、概ね二つに分かれていつになく不穏でした。

そして不満側にDが居ました。Dは明らかに苦言を呈していました。

私は思いました。「作り手なら確かに文句も言いたくなるかもしれないけど、プレゼンした芸人さんがその投稿を見るかもしれないって思わなかったんですか?」

Dに話しかける不満側の人の中に、こんなことを言う人が居ました。
「この芸人さんは子供の頃に【本人にはどうしようもない理不尽な状況】だったそうだからそれで喋りが上手くないのでは?」

私は思いました。「これは許しちゃいかんやつでしょ。Dに怒られて」

D「そうかもしれないですね」

私は思いました。「オイオイオイDお前それは駄目だろ。
【本人にはどうしようもない理不尽な状況】は差別じゃねえか。
それにお前がこの間書いた半ノベライズの主人公だって【本人にはどうしようもない理不尽な状況】だったじゃないか。
何なら推しのゲームのヒロインだってほぼ【本人にはどうしようもない理不尽な状況】だったじゃないか。
それを救うようなシナリオを用意したのはお前じゃないんか。
Dお前それは駄目だろ」

そうやって、とても嫌な気分になりながらこの流れを誰も咎めないスレッドを見ていました。
Dか芸人さんが有名だったら、どちらかがひどい炎上をしていたと思います。どちらもそんなに有名ではなかったのでボヤにもなりませんでした。

それから、いろいろと気になるようになりました。
いろいろ、いろいろと。

――Dは資料集を出したがっているが退社した人間にそこまでの裁量があるんだろうか?――
――ファンアートを描くたびにわざわざ公式に近いアカウントに報告しないでほしい、感嘆符の使い方も相変わらず変だし――
――また絵の上手いフォロワーの絵が勝手に海外の人のアイコンにされてる――
――この界隈に居ると●●ナーに間違われるのが地味にストレスだ――

この沼を出ていくことにした

あばたもえくぼに見えていたものがやっぱりあばただったと気づいてしまった自分はこの沼から足抜けすることにしたのです。
事を荒立てる必要はないと「アカウント消します」とも言わず、投稿数を段階的に減らし、無言になり、規制に引っ掛からないようひと月ほどかけて全てのフォローとフォロワーを解除し、他と色々連携しているので手放せないIDだけを新しいアカウントに紐づけ、ひっそりと消えることに成功しました。

これには「すこし界隈から離れたい」という気持ちもあったし「いろいろあって推しに時間が割けなくなっていた」というのも一因です。

少し距離を置いたところから、推したいときに推そうと考えたのです。

だが、気が付くと、推しが描けなくなっていた

それに気が付いたのは、推しのゲームの何十年目かの発売日だったと思います。
記念に何か描――描けない――
一番好きなタイトルなのに――何も、構図もシチュエーションも表情すらも浮かばない――
ちょっとYoutubeに行って動画を見れば当時の高揚も感動も思い出せるのに――それ以上何も起こらない――
そっとペンタブを置きました。

よくよく考えたら、私の推しの推しポイントは「性格」なんです。
推しは少し特殊な見た目ですが、そちらの要素は正直重要視してないんです。
けれど自分が推しを知った後に、シリーズの方向性を変えることになったらしく、推しの性格はそこでキッズ向けの『明るくて元気な子』に変わってしまいました。

つまり、私の推しは本当はもうとっくの昔に死んでいたわけです。

それに気づいてしまったからでしょうか。
心に住み着いていたはずの私の推しは居なくなってしまったのです。

一見明るく元気そうな子のようで、その実テンションは抑えめ、むしろ冷静寄りでどことなく陰がある――それが私の推しでした。

けれど、もはや顔さえも思い出せないのです。

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