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骨折した時に気をつけてほしい3つのこと

こんにちは。手外科医のシロクマです。
年間400件以上の手術を担当しながら、手の外科疾患をお持ちの患者さんにより安全・安心・安楽な手術を届けるべく奮闘中です。

今回は骨折してしまった時に患者さんに気をつけておいてほしいことを解説します。骨折はしないに越したことはありませんが、なかなか完全に予防するのも難しいものです。今回は、私が診察していて気になる頻度が高く、また治療に影響が大きい注意点を3つ選んでお伝えします。
少しでも参考になれば幸いです。


①RICE

まずはぶつけたり、転んだりして「骨折したかも!?」と思った段階で気をつけてほしい点です。

ぶつけたところ、痛むところについて以下の4つを心がけてください。

REST: 動かさない
ICE:冷やす
COMPRESS:圧迫する
ELEVATE:挙上する

(頭文字をとってRICEといいます)

具体的に説明していきます。

REST: 動かさない

まず「動かさない」ですが、骨折すると当然、折れた部分は骨の支えがなくなります。この状態のままだと骨のずれがさらに大きくなったり(転位といいます)、まわりの神経や血管、腱や筋肉などに悪影響が出ます。このためぶつけた部分を動かさないことが非常に重要です。

病院ではプラスチック製の副子(添え木のことですね)で固定することが多いですが、ご自宅であれば段ボールなどを折り曲げて使うと良いと思います。包帯があればベストですが、無ければガムテープなどでも良いので、痛む箇所の前後を巻いて固定しましょう(強く巻きすぎないように注意してください)。

怪我をした部分の前後の関節を含めて固定するのがベストですが、なかなか判断が難しいと思いますので、わからないときは広めの範囲で固定しておけばいいと思います。

あくまでも病院を受診するまでの応急処置ですが、このような応急処置をしている方は腫れなどがかなり少なくなり、その後の治療もしやすくなるため、非常に有効です。

ICE:冷やす

続いて「冷やす」です。先ほどの固定をした後、痛む場所を保冷剤などで冷やしましょう。保冷剤や氷などは直接当てると皮膚に負担が大きいので、タオルなどで薄くくるんで当てるといいと思います。患者さんからよく受ける質問で、「冷やした方がいいか温めた方がいいか」がありますが、ぶつけたりして痛む場合は冷やす方が良いです。怪我の直後では、温めると痛みが増す可能性が高いのでやめておきましょう。

COMPRESS:圧迫する

続いて「圧迫する」ですが、出血などがなければ、「動かさない」と同じ意味で考えておけばいいと思います。あまり締め付け過ぎるのも良くないので、痛む部位があまり動かない程度に圧迫しておけばいいでしょう。軽い出血がある場合には血が出ているところをきれいなタオルなどで押さえておくようにしましょう。

ELEVATE:挙上する

最後に「挙上する」です。怪我をした部位を下ろしていると、腫れがどんどんひどくなりますので出来るだけおろさないようにしましょう。寝るときは掛け布団などを折り曲げて、心臓より高い位置に患部をおくようにします。上肢の場合は三角巾(なければ大きなバンダナなどで代用できます)で吊っておく、下肢の場合は、椅子に座る際に横にもう一脚椅子をおいて足を投げ出しておく、などは非常に有効です。

尚、最近ではこのRICEからRを外して、OPTIMAL LOADING (適切な負荷)を入れたPOLICEという概念もできているようです。確かにあまりにも動かさないのが良くないのはその通りです(詳しくは後述します)。

しかし、「適切な負荷」というのは、整形外科医や理学療法士、作業療法士など以外には極めて難しい判断になると思います。

ですので、まずはRICEをしっかり行うことが重要です。

②早めに整形外科を受診する

動いているから大丈夫?

よく、「動いてるから大丈夫と思いました」とか「それほど痛くなかったので大丈夫と思いました」などのお話を受診された患者さんから聞くことがあります。気持ちはよくわかるのですが、これらは実は完全に迷信です。動いていても、大した痛みが無くても、骨折していたり重大な怪我が隠れていることは私たち整形外科医にとっては日常茶飯事です。

昔は「そういうのは迷信です。もっと早く受診してもらった方が良かったです」と積極的に伝えていた時期もありましたが、最近はあまり言わなくなりました。患者さんはもうすでに痛みやその他辛い思いをしているのに、わざわざ聞かれてもいないことを言うのは違うかなと思っています。

兎にも角にも、それなりの怪我をしたらまずは整形外科を受診しましょう。患者さんにとって最も合理的な(と思われる)受診の仕方についてはまた後日詳細に記載したいと思いますが、今日は要点だけお伝えしておきます。

救急外来を受診すべきか?

まず、救急外来を受診するかどうかです。日中の外来が開いている時間であれば、間違いなく整形外科の外来を受診されることをおすすめします。正直に申し上げて、救急外来は骨折したかどうか、またその治療をどうすればよいかを相談する場所ではありません。命に関わる緊急事態に対応する場所です。診察するのが整形外科医とは限りませんし、検査も最小限しか出来ない場合が多いです。

ですので、患者さんにとって救急外来を受診するメリットがあるのは、
①夜間などの通常の診療がない時間で
②とりあえず応急処置が必要(痛み止めがなかったり、出血が止まらなかったり)で
③後日再度整形外科受診が必要であることを理解された上でも受診したい

この3つを満たした場合のみだと思います。

能力の高い整形外科医に出会うには

続いて整形外科の受診ですが、正直に言うと、整形外科医の診断・治療能力にはかなりの個人差があります(もちろん自省も含めての話です)。

ですから適切な治療を受けるには、能力の高い整形外科医に担当してもらうことが極めて重要になってきます。ここで難しいのは、医師の年齢や勤務地(クリニックから大病院まで)、肩書きなどはそれほどあてにならないという点です。

ここで、能力の高い整形外科医にたどり着く方法として私がもっとも有効だと思う方法をぶっちゃけておきます。それは「前もって信頼できる整形外科医を一人見つけておき、仲よくなっておくこと」です。この整形外科医は必ずしもなんでもできるスーパーマンである必要はありません。人間として、信頼できれば十分です。もちろん近所の開業医さんでもいいですし、友人や知人が整形外科医ならその人を頼ってもいいでしょう。そしていざケガや整形外科の病気になった時に、どうすればいいか相談してみてください。おそらくその先生自身が担当してくれるか、もし専門外であればその分野の適切な整形外科医を紹介してくれると思います。

この方法でも「もしかするとその先生自身の能力が低いかもしれない」し、また「紹介してくれた先生が能力が高いと限らない」ですが、それでもまったく前情報のない状態で、なんとなく外来を受診するよりは格段に有能な整形外科医にたどり着ける確率はあがると思います。

もちろん、患者さんと医師との相性という話もあります。患者さんのニーズによっても、相性の良い先生は違います。相性が合わない医師の診察を受け続けるのは患者さんにとって不幸ですので、気にせず転院しましょう。その際、簡単な紹介状と画像検査の添付を依頼すると、次の病院を受診される場合にベターです。(これを遠慮される患者さんがよくいますが、正直に言って前医での情報が全くない状態で次の病院を受診するのはとんでもなく無駄が多いです。せっかく調べてもらった検査をもう一度受ける必要は無いので、ぜひ紹介状や画像添付はしてもらってください。)

③動かしてもいいところは積極的に動かす

最後に、整形外科を受診した後に注意しておいてほしいことを解説します。
それは「動かしてもいいところは積極的に動かす」です。

先ほども少し話が出ましたが、骨折の基本は「患部の固定」です。一方、患部以外を固定しておく意味は全くありません。

私が日常臨床を行っていて、とても多いのが、「骨折していると聞いたので手(足)全体をできるだけ動かさないようにしていました」という誤解です。

例えば、橈骨遠位端骨折という手首の骨折(非常に頻度の高い骨折の一つです)を治療する中で、手の指が固くなってしまう患者さんが少なからずいらっしゃいます。

この骨折では指はけがをしているわけではないのです。ところが、「とにかく骨折したら安静に、動かさないように」という考えで、指まで動かさないようにすることによって、指の関節がこわばってしまうのです。

これは指に限らず、例えば三角巾で吊っていたために肩の関節や肘の関節が固くなってしまう場合もあります。

このように骨折した部位以外の関節が固くなってしまうと、このせいで運動機能が低下してしまうことがよくあります。また一度固くなった関節はなかなかやわらかくならず、後遺症として残ることもよくあります。

このような問題は、「骨折していて動かさないようにすべき部位と、積極的に動かしてもよい部位」が理解でき、「動かしてもよい部位は積極的に動かしておく」ことにより避けられる問題なのです。

基本的に骨折した部位をはさんだ2か所の関節以外は動かしてもよい関節です。ただこのルールはなかなかわかりづらいと思いますから、整形外科を受診した際に、周りの関節を動かしてもよいか質問してもよいでしょう。

またしっかりした整形外科医であれば、そもそも動かしてはいけない関節は外固定(添え木などで固定すること)をしてくれているはずですから、それ以外の関節は基本的に動かしてもいい関節ということになります。


以上、今回は骨折の際に気を付けておいてほしいことを3つ解説しました。けがは突然起きるので、なかなか前もって準備することは難しいですが、心がけ一つで最終的な結果が大きく変わることもあります。
今回の内容が、あなたや周りの方がけがや骨折をした際に、少しでも参考になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。





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