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特別支援学校「調理実習」の目的

それは、私が学校司書1年目で特別支援学校に勤めていた時。

まだ学校という職場にも慣れず、学校司書としても新米。
その上この学校には学校図書館もなく、なんだか居場所が落ち着かない。
そのため、様々なクラスをよく見学に行きました。

その日は、中学部の子が数名、朝からエプロンと三角巾姿でいたので、何かあるのかと聞いたところ、
「調理実習」との回答。
調理室はないのですが、宿泊棟のキッチンや教室のホットプレートで調理らしきものをやっているのを何度か目撃していたので、
ワクワクして「何作るの?」と聞いたら「ラーメン」だという。

私が小学生の家庭科で、一番最初にやった調理実習は何だったかというと、
実は、ラーメン。
教科書通りとしては、野菜炒めとゆでたまごだったのですが、土曜の半日授業の日にみんなで袋麵を持参して、ラーメンに野菜炒めと卵を乗せ、お昼ご飯にした、とても楽しい調理実習だったことが一気に思い出されたのでした。

「私も調理実習でラーメン作ったなあ」
などとつぶやいていると、先生が運んできたのは…
カップラーメン。

え?カップラーメンが調理実習?お湯を入れて3分の?それじゃあ何も作ってない。
正直そう思いました。
そして、たまたま来た教務主任にそのまま問うたのです。

__この子たちは、カップラーメンを食べるのに
*ふたを開け(それも途中までで止める)
*小袋を順番に入れ
*電気ポットでお湯を沸かす
*お湯をやけどせずに中に入れる
*3分(表示を確認)待つ
これだけのステップをやる。
今日まで見てきて、これを何も説明しないで当たり前にできると思いますか?

多分、全員がすんなりできるとは到底思えません。

__じゃあ、これができるようになったら、どうなると思いますか?
少なくとも1食分の時間を一人でも過ごすことができる。
食べることは生きることでしょう?
栄養バランスを考えて、調理して、美味しくて、温かい献立のひとつ前を考えてみてください。
本人もそうだし、親もきっとそれで少し気持ちが楽になる人がいるはずです。

恥ずかしいと思いました。自分が何も想像できていなかったことに。
わかった顔だけしていたことに。

今でも何度も思い返します。何度も恥ずかしくなります。
でもここから、自分の考え方が変わったと思います。
ここに来なかったら、もう、ずっとわからないことだったかもしれません。
今は、本当にきてよかった、そう思います。

足掛けで7年。この学校に関わっています。
彼らのことは、まだ全然わかりません。
でも、出会ったからこそ、「全然わかっていない」ということが分かって、知ろうとしているので、あの頃よりはずっとましな私になれているのかもしれません。

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