【デーモンマスター】
放課後。夕日に照らされオレンジに染まるススキを、時おり吹く電子ノイズが揺らす。
そのただ中、武者は太刀を正眼に構える。兜はなく、露出した頭部は白い虎のそれだ。彼の名は白虎。
離れて対峙するもう一人の姿。ステッキにタキシード、その顔は赤いクリスタル。彼の名はメフィスト。
二者の中間にフラッグが浮かぶ。
電子ノイズが凪いだ瞬間、白虎が仕掛けた。ギガバイトの踏み込みで、瞬時に刀の間合いに達する。切り上げた刃が触れると、メフィストは霧散した。デコイ。
白虎は間髪入れず振り返り、刀を振り下ろす! 手応え! ステルスが解け、ステッキで刀を受けるメフィストが現れた。メフィストは続く刺突を跳躍で避け、飛び離れながらステッキから無数のビームを放つ! だが、巧みな刀捌きが全て弾いた。
フラッグを挟み睨み合う。ちょうど位置が入れ替わった形。
唐突に、白虎の傍らにモニターが現れ、ショートヘアの少女が映る。見たところ10代前半。
「今日こそ勝つ! べそかくのは紺野、アンタよ!」
放棄されたドメインは、子どもにとって格好の“秘密基地”。そしてしばしば、その占有者はデーモンのバトルで決まる。
メフィストの隣にもモニターが現れる。同じ年頃の少年。束ねた後ろ髪と、幼さの残る顔。しかし眼差しは挑戦的だ。
「メフィストは無敵だ。ここは俺がもらう」
だがその時、フラッグに、虚空から現れた南京錠が掛かった。囲うようにテキストが表示され、電子音声が読み上げる。
《アドミン権限をロックします。犯罪捜査にご協力感謝します》
「「ふざけんな!!」」
叫びがシンクロした。
ここ最近、世間を騒がす無人機暴走事件。犯人逮捕の兆しはなく、強化される取り締まりは、子どもの遊び場にまで及ぶ。二人とも、元々の秘密基地を奪われたために、ここを取り合っていたのだ。
落胆は、やがて憤りに変わる。
「紺野、勝負のルール、変えない?」
「犯人見つけた方が、勝ちだな!」
【続く】
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