氷川透「真っ暗な夜明け」読了


第15回メフィスト賞受賞作作品。講談社ノベルス刊行。作者と同姓同名の登場人物・氷川透は、学生時代のバンドメンバーと飲み会で久々の再会を果たすが、飲み会帰りの終電間際の地下鉄駅構内でメンバーの一人が撲殺される事件に巻き込まれることになる。凶器はブロンズ像そのものではなく、その台座。また氷川透の監視もあって現場は人の出入りのない閉鎖空間が成立し容疑者は身内であるバンドメンバー内に限定され、推理で犯人に迫っていくことになる。

途中で第二の事件も起きるとは言え、奇抜でド派手な受賞作という印象の深いメフィスト賞の長編ミステリとは思えないほど地味な事件設定。氷川透が語り手固定というわけではなく、作中でも言及されるような序盤から登場人物一覧表に名前のある各人物にスポットがあたってラストに判明する犯人もしれっと含めた内面描写が披露されるというなかなか攻めた作品構成になっている。氷川を中心に対面や電話での会話劇で幾度となく論理的に推理をし仮説を立てては可能性つぶしを進め、やがて犯人特定に至るロジックの構築を完成させる様は読んでいて本格ミステリ好きにはたまらない。

ミステリ面以外で作中で気になる要素として登場人物により作中幾度となく言及される男女の性差別論があるけど、結局のところ作中人物たちは男女の性差について半ば認め肯定的であるし、何より作中において男女の違いを意識した登場人物のキャラクター設定が顕著に現れているので、わかりにくい冗談の一種で、そんなに深く気にすることではないのかもしれない。

しょっぱなから脱線し半ば思い出したように本筋の話に戻る大味の巻末の推薦文は、お馴染み島田荘司作品の構成そのもので面白かった。