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たった一人の読者は、担任の先生。

小6くらいから漫画を描き始め、小説を書くことにも興味を持ったのは、中学一年くらいの頃だった。

あの頃はパソコンはあったものの、一般家庭に出回るような代物ではなく。チラシの裏とか余ったノートの漫画を描いていた私のような人間が、小説を書けるとは思っていなかった。

もちろん小説よりも漫画のほうが下、というわけではなく、小説=原稿用紙に書くというイメージが強かったので、そのイメージで勝手にハードルが上がっていただけなのだが……。

漫画を描くことも本当に趣味だったので、ただ漠然と小説も書いてみたいなあと、浮かんだアイデアだけを生徒手帳の余白部分に忘れないようにメモしていた。

しかし、中学二年生の時に私に衝撃を与えたドラマがあった。それが金田一少年の事件簿だった。
当時、古畑任三郎も大好きだったので、私の中のミステリーブームに火がついた。

ミステリーを自分でも書けると思っていたのではなく、私も書きたいと思うほどに好きになってしまったのだ。

そして色々と事件が浮かぶのだけれど、それを絵で表現できそうもない。でも小説はどこに書けばいいの? ノートに書いても誰も読んでくれない。誰かに読んでほしい。

そう思って私が自作の小説を書いた先は、あろうことか生活ノートだった。

生活ノートというのは、毎日その日あった出来事を書いて、先生に提出し、赤文字で先生がコメントを入れる、という先生と生徒の一対一の日記のようなものだった。

それまでの私は、一行か二行くらい「今日は猫と遊んだ。引っ掻かれた」とか、「今日はこたつで寝てしまった」とかそんなことを書くだけだったのだが。

生活ノートにいきなり自作のミステリーを書き始めた。先生が気をつかってコメントで「おもしろそう。どうなるの?」と書いてくれて、味を占めてしまった。

私の生活ノートは、どんどん長くなっていく。左側に日付と時間割が書く欄があり、毎日、生徒側がどれぐらいの日記を書けばいいのかわかる余白がある。そんなの関係ねえ!

それでも先生は、「えっ? これどういうトリック?」とか、「そんな、この人死んじゃうなんて!」みたいにめちゃくちゃ良い反応をくれていた。そのたびに、どんどん長くなっていった。ただ、先生が全部きっちり読んでくれていたのかわからないが、読んでくれていたと思う。たぶん。

しかも私はトリックなどを考えずに書き始めた上に、「どうしよう。みんな殺しちゃった。かわいそう」と突然、登場人物たちに感情移入しはじめた。その結果。

犯人に殺害された人は、人間ではなく、みんな人形だった。だからみんな生きてる。犯人はどっかと遠くへ旅立った。

そんなオチにした記憶がある。その時の先生のコメントは……。

「犯人は一体、何がしたかったんだろう?」

ほんとそれ。

でも、初小説を完結させた私は、今度はファンタジーを書き始めた。完全に映画(キャスパー)の影響を受けている。

それは完成させらなかったが、付き合ってくれた先生には感謝しかない。そして、それ以降は20歳になるまで小説を書かなかった。たぶん飽きたんだと思う。

こんな私が、今、ライターやりながら小説も刊行準備中になるなんて、人生はわからないものだ。

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