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地獄の強歩大会<後編>~ゴールの幻が見える~
また前編後編に分けてしまった。
前編はこちら↓
夜の道、しかも知らない道を女子4人で歩くのはちょっと怖かった。
最初のスタートはみんな一緒だったけれど、走る男子の班やら、妙に歩くのが速い運動部の女子の班など、どんどん他の班と差ができていく。
私の班は女子4人で、全員、文化部だった。
なので「そんなに急ぐことないよねー」とか言い合いながら歩いていた。
最初のうちは、会話をしながら賑やかに歩いていた。
人気のない道で鈴の音が聞こえて、「えっ?! おばけ?」とみんなで怖がっていたり(たぶん猫)昨日観たテレビの話とかしたり。
なんだ、楽勝じゃん。
そう思った私は、まだまだ甘かった。
そもそもまだ、始まってもいなかったのだ。
最初の休憩ポイントに到着する。
そろそろうっすらと空が明るくなり始めていた時間だ。
休憩後、また歩き出した私に担任教師が声をかけてきた。
「おっ、なんか調子良さそうだな」
私は得意気に「はい! この調子なら完歩できそうです!」とめちゃくちゃ元気に答えた直後に、盛大にコケた。
さ、坂道の下りだったから……!
そんなこんなで、海にずいぶんと近い岩場の近くで、学年全員で朝ごはん→朝日を拝むというイベント。
しかし、天気が悪くて朝日が見えなかった。
それからまた歩き始めると、少し疲れが出てくる。でも、まだ心身ともに余裕はあった。
すると、海沿いで生徒会の三年生たちが、チョコを配ってくれていた。
それを受け取ると、先輩は明るい口調でいう。
「このあと、そろそろ砂浜だけど、砂浜が一番キツイからね! がんばって」
すごくいい笑顔で言われた。
あと、チョコ、めちゃくちゃ美味しかった。
そして、とうとう砂浜に到着。
ここからは砂浜をずっと歩くことになる。
ゴールまで砂浜なのだ。
最初は結構、調子よく歩いていた。
冬の海の風邪は冷たいが、足、背中などにカイロを貼ったから全然寒くない。
しかし、余裕なのは最初だけだった。
砂浜は足をとられる。
だから普通に歩くよりもずっと体力が削られていく。
景色も変わらない。
ずっと似たような景色が続いていく。
体にも心にも疲労が蓄積していった。
強歩大会の2/3は砂浜らしい、と後で聞いた。
なにその鬼ルート。
車が来ないから安全なのかもしれないが、異様に砂浜が長いわけだ。
ゴールは、大きなはたが立っているからわかる、と先に先生が説明してくれた。
だから私は、「あれ、遠く見えてるのゴールじゃない?」と班の子たちを騒がせ、結果的に岩の模様だということが判明。
そのあとも、「あ、あれはゴールの『ゴ』の字だよ!」と私が指さしたら、同じ班のはとこに「はなちゃん、それも岩の模様」とツッコまれた。
人間、岩の模様も疲れていると自分の望むものに見えてしまうものだ。
さて、岩の模様がゴールに見えると騒いでいた私も、ツッコミを入れてくれたはとこも、一緒に「本当に?!」騒いでくれた班のメンバーも、どんどん疲れで喋らなくなっていく。
砂浜の途中で、テントが立っていて、そこで生徒のお母さんたちが、あんみつを作って配ってくれていた。
私がはとこと会話をしたのがこれが最後だった。
いや、もうそのあとから、どんどん辛くなる一方で話すどころではなくなっていったのだ。
汗がかわいて海の風に当たって寒い、でもカイロでほかほかして熱い気もする。疲れたし眠いしお腹減った。
とにかく足が棒みたい。あちこちが痛くて重くて、もう自分の足じゃないみたいだ。
そんなふうに無言で歩く私たちの班を、運動部のクラスの女子たちが軽やかな足取りで「がんばれ~」と励ましてくれながら、颯爽と追い越していく。
ねえ、なんでそんなに元気なの?!
同じ14歳でもこうも違うとは……。運動部すごい。
そんなふうに現実を突きつけられつつも、とうとうゴールの旗が見えた。ちなみにゴールの旗に書かれた文字は「GOAL」と英語だった。
なので、私が途中で「ゴールの『ゴ』の字が見える」と言ったけれど、見えるわけがなかったのだ。そもそも存在しなかった。
そんなわけで、ようやくゴールできた。
喜びよりも「これでもう歩かなくていい」という気持ちが強かった。ちなみに順位は学年の中でも真ん中の位置だったので、班の子たちと「かなり良いのでは?」と話していた。
そのあと、学校で用意してくれたおにぎりを食べて、バスで学校へ帰った。バスの中では、みんな寝ていた。もちろん私も寝た。
貴重な体験だったけれど、もう一度40キロ歩きたいかと言えば、それはもう無理。
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