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教習所で一目惚れした話~前編~

私が住んでいた愛知は、狭い範囲にいくつも教習所があった。
当時は18歳を超えたら免許を取るのは自然で、尚且つ車移動じゃないと不便な田舎は、みんな免許を当然のように持っていた。

私の住む町も、田舎でスーパーへ行くのも車必須。
自転車で行けないこともないが、やはり車は色々な意味で強かった。

私は酷い方向音痴だ。そして決断力のある方向音痴だ。非常に厄介である。
おまけに空間把握能力はなく、運動神経は母のお腹の中に置いてきたし、とにもかくにも、運転に超不向きだと自覚していた。

しかし、母が「お金は出すから、免許をとって」と言ってきたのだ。
そんな……私に取れるのか? AT限定だから大丈夫そうだなんてちっとも思わないぞ?

だが、母は強いので、私はあれよあれよという間に教習所に通うことになった。
それが19歳の2月のことである。

最初はまったく行かなかった。
でも、あまり行かないとマズイので3月はちょっと行ったし、4月もちょっと行こうと思っていた。

そんな4月のある日。
私は誕生日を迎えて20歳になっていた。
教習所で技能教習を受けた時、車の前に立っていた先生を見て胸を撃ち抜かれた。
射殺されたのではない。
恋に落ちたのだ。

とにかく、すごいカッコいい先生だった。
スラッとした体型に背も高くて、白いきれいな肌に整った顔立ち。
めっちゃくちゃ好みの先生で、私は一気にテンションが上がる。

技能教習の先生はランダムで、誰に当たるか決まっているわけではない。
しかし、私はそれまで60代くらいの先生に当たることが多く、車内は常に
ダジャレと変なうんちくで溢れていた。
いや、おもしろい先生だったけどね。

それ以外の先生だと、30代くらいの必要最低限の会話しかしない先生しか知らなかった。
どんな時でも「暑いな」と言って、窓を開ける先生だった。寒かった。

そういう先生と比べているからカッコいいとか、そういうわけじゃない。
そのカッコいい先生、仮にA先生としよう。
A先生は、輝いていた。
笑顔がまぶしかった。

A先生は、とても気さくに話してくれた。
運転中に緊張しないように、雑談をしてくれる。
大げさにならない程度に褒めてくれる。
1時間の技能教習なんてあっという間だった。

しかもその日は偶然にもう1時間技能教習を取っていた。
2時間連続である。
2回目もA先生だった。

A先生とたわいもない話をしながらの教習は、ものすごく楽しかった。
いつもこんなに楽しいなら、教習所に常に通うのに、とすら思えた。
会話の中で、先生が25歳ということがわかった。
「花さん、20歳なんだね。年齢が近いと気楽に話せるね」と先生は笑った。

先生はコミュ力が高いので、別に年齢が近かろうが遠かろうが気さくに話せるんだろう。
今ならそう思うが、私は変に特別感を覚えてしまった。

それから私は可能な限り教習所に通い出す。
母は「やっとやる気になった」と喜んでくれた。
ただ先生に恋しただけです。

しかし、あの教習以降、先生に当たることはなかった。
指名できたらどんなにいいか……。
偶然、教習所内で会うこともなく、ため息ばかりの日々が続いた。

そして、私は仮免に受かった時、ある決意をする。
よし、告白をしよう、と。

想いを伝えるべく手紙を書き、最後に自分の携帯番号も書いた。
ラブレターの完成である。
あとは、先生に渡すだけだ。

後編に続きます。


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