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教習所で一目惚れをした話~後編~

前編はこちら↓


先生になかなか会えないのに、手紙を渡せるのだろうか。
そう思ったけれど、案外あっさりと先生に会えた。

教習所の建物に入る直前で、先生とバッタリ会ったのだ。
「久しぶり」と先生は笑ってくれて、私はチャンスだと思った。
「先生、ちょっと話があるんですが」と言って、足止めに成功。

周囲には誰もおらず、本当にこれが最高のチャンスだと思えた。
先生は私が呼び止めたことを、あまり不思議に思っていなさそうな表情で言った。

「花さん、仮免受かったんだってね」
「はい。なんとか受かりました」
「他の先生から聞いたよ。よく頑張ってるね」

先生は、会えなくても私のことを気にかけてくれていた。
それはもちろん生徒だからなんだろうけど。
それでも、すごくうれしかった。
やっぱり好きだ、と思った。

自然と手紙を差し出し、「読んでください」と言った。
先生はそれを受け取ってくれた。
たぶん、ラブレターだということはバレていたと思う。

その日のうちに、先生から電話がかかってきた。
ずっと握りしめていた携帯に、知らない番号でかかってきたのだ。
電話に出たら、A先生だった。

私の気持ちには答えられない、と言われた。
そんな気はしていた。
先生みたいに魅力で溢れる男性に、私が釣り合うはずがない。
正直、玉砕前提の告白だったのだ。

先生は、「いつも応援してるからね」とフォローまで入れてくれて電話を切った。
泣けなかった。
悲しい、という感情を通り越していたのだ。
どんなに釣り合わなくても、玉砕覚悟でも、少しの希望が欲しかった。
でも、それもなさそうだった。

免許を取得し、教習所を卒業した。
私はその時もまだ先生が好きだったけれど、先生に彼女いることを知ってしまい、完全にこの恋は実らないと思った。

それでも私はなかなか先生のことを忘れることができず、妄想に浸るようになった。
妄想の中では、私が先生に好かれて、そして恋人同士になる、と実に都合の良いもので。
それをどんどん細かく妄想していった。

それから2年ほどしてから、弟が私と同じ教習所で免許を取ることになった。
弟は教習所に入学する手続きをするために、私が車で送って行った。

受付には、A先生が偶然いた。
やっぱりものすごくカッコいい。
髪の毛の色が明るくなり、パーマもかけてカッコよさがパワーアップしていた。

「あれ? 久しぶりだね」と先生から話しかけてくれた。
私「久しぶりですね。あ、髪の毛、染めました?」
先生「そうそう。校長が変わったから規則もゆるくなったんだよ」
私「へー。いいですねー。私も色変えようかなと思ってたんですよね」
先生「パーマいいよ。って、あ、今日はどうしたの?」
私「弟が入学するんで、車出したんです」
先生「あー、そういうことか! よろしくね」
先生は弟ににっこり笑った。

帰り際、弟はぼそっと言った。
「先生とあんなに気さくに会話できるもんなの?」
私は「あの先生が話しやすいだけだよ」と答えた。
失恋もしたしね、というのは秘密。

私は、教習所を卒業してから、先生との妄想を頭の中でドラマとして上映するだけでは物足りなくなり、ワープロに小説を書き始めていた。

これが、私が小説を書くきっかけとなった。
あの失恋があって、今の私があるのかもしれない。

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