ハエ男

これは私が中学1年の時に初めて書き下ろした脚本「ハエ男」です。
映像化することが前提になっていたためこれ以外の作品とは違ったテイストになっていると思います。
また、脚本作成時はコロナ禍の真っ只中(2021年)だったため、一部コロナ禍の状況を踏まえた文脈になっています。
最初の脚本のためまだまだ荒削りで完成度も低いですが、個人的には気に入っている作品です。楽しんで読んで頂けると幸いです。

登場人物:
生徒A、B、C、D、E、F、G、H
先生

生徒Aの部屋
ある朝、Aが起床する場面から始まる

生徒A:あー。寝すぎた。もう朝か・・・。昨日ちょっと勉強がんばりすぎたかな。急いで支度しないと。
(時計を見る)
うーん、登校時間まであと15分か・・。まあ俺の脚をもってすれば余裕だな。やっぱり自宅から徒歩で通える学校を選んだ俺の天才的な選択に狂いはないな。

(学校に行く支度をする)
(カバンの中からジュースの缶を見つけて手に取ってみる。

生徒A:ん?これなんだっけ?ああ、そういえば昨日部活終わって着替えてる時にこれ見つけたんだっけ。パッケージなにも無いし怪しすぎるけどキンキンに冷えてたしすげえ喉乾いてたから気にしないで飲んだんだったな。
これ何だったんだろう?ん?なんか底に「テスト」って書いてある?
まあいいか、いそがないと・・。

生徒Aが教室に到着する

生徒A:おはよーす・・
生徒B:おはよー、・・・ん?
生徒C:おはよー、・・・あれ?
生徒A:おお、みんなおはよー。
生徒B:あれ?Aの声が聞こえたんだけどな。聞こえたよな?
生徒C:聞こえたね。はっきりと。
生徒A:いや、だからおはよーって。無視すんなよ。
生徒B:おお?また聞こえた。絶対聞こえた。
生徒C:聞き間違いじゃないね。これ幻聴だったら即入院レベル。
生徒A:さっきから何いってんだよ。目の前であいさつしてんじゃん。
生徒B:うん。Aだ。Aがいるな。でもどこだ?
生徒C:なんかAの席のところに黒いのがいるような・・。

Aの席に近づいてよく見る

生徒A:おいおい、そんな近づいてくんなよ。ディスタンス!ソーシャルディスタンス!
生徒B:いるね。黒いの。
生徒C:いるよね。これ、ハエだね。
生徒A:えっまじで?俺の席にハエ?やだよー。俺ハエ苦手なんだよな。
生徒B:いや、むしろハエしかいないぞ。
生徒C:そうだね。Aの席にはハエしかいないね。
生徒A:ハエしかいない?俺は?
生徒B:奇っ怪な。Aの声ははっきり聞こえるのにAの姿は見えず。
生徒C:そしてハエがそこにいる
生徒D:ふふ、話は聞かせてもらったよ諸君。ここは名探偵ルパンことワタクシが謎を解いてあげましょう。
生徒B:朝っぱらから盗み聞きしてんじゃねえよ名探偵。しかもルパンは探偵じゃねえだろ。
生徒C:まあまあ、まだ授業まで時間もあるし。ここは名探偵ルパン君の名推理を聞いてみてもいいんじゃないかな。
生徒D:ありがとうワトソン君。
生徒C:勝手に助手にすんなよ
生徒D:じゃあまずは状況の整理から始めよう。君たちは登校して朝の挨拶をするA君の声を聞いた。これは間違いない。私も横で聞いたからね。しかし我々の目の前にはA君はいない。いるのはハエだけだ。つまりこの状況から導き出される結論は・・・・
生徒BC:結論は??
生徒D:ずばり、「気のせい」だ。いやー、みんな今日のテストのために勉強がんばりすぎたんじゃないかなあ。みんな、睡眠不足は著しく思考力を低下させる。ありもしない声を聞いてしまうなんてこともあるわけだ。いやー、寝不足ってこわいなあ・・
生徒A:そんなわけあるか!俺はここにいるだろ!
生徒BCD:うわっっ!
生徒A:さっきから俺の存在を無視しやがって。なんだよ。いじめか?「いじめ。カッコ悪い」だぞ。
生徒B:やっぱりAがいるな
生徒C:でもここに見えるのはハエだけ・・・
生徒D:つまり、ここから導き出される結論は・・・・
生徒BCD:ハエがA?
生徒A:ハエ?いや、何いってんの?俺は俺だよ。ハエじゃないよ
生徒B:おいA、ちょっと前に動いてみて

(生徒Aが前に動く)
(生徒BCDの目線が横に平行移動する)

生徒BCD:おおー
生徒C:ねえA、ちょっとジャンプしてみてよ

(生徒Aがジャンプする)
(生徒BCDの目線が上に平行移動する)

生徒BCD:おおおー
生徒A:おおおー、じゃねえよ。なんだよさっきから
生徒B:いいかA、落ち着いて聞いてくれ。信じられないだろうがお前はハエだ。いや、ハエがお前なんだ。
生徒A:は?なに言ってんの?
生徒C:Bの言う通りだよ。Aはハエなんだ。全く意味は分からないしメカニズムも不明だけど君は今ハエなんだよ。
生徒D:しかし驚くべきことはそんなハエのA君と我々は普通に会話できているということですね。これは人類史に残る衝撃的な事件といっても過言ではないでしょう。
生徒A:俺がハエ?まじで?普通に服を着替えて歩いて学校まで来れたんだけどな。全く飛んでるイメージはないぞ。
生徒D:そこがこの事件のポイントですね。君はごく普通に振る舞っているだけ。でも我々の目にはハエがそこにいるようにしか見えていない。つまりこれは・・・
生徒A:(生徒Dの話を遮るように)いや、まあ俺はあんまり自分が変わった意識もないし、深く考えてもどうしようもないかなあ・・

先生:おーい、そろそろ授業始めるぞ。みんな席につけー。

先生:よし、みんな席についたな。
生徒E:先生、まだA君が来てないみたいですよ
生徒F:あれ?でもさっきBCDとAが話してるの聞いたような気がするんだけどな
生徒G:たしかに。あいつどこに消えたんだ?
生徒B:いや、実は・・・
生徒E:やだ、先生、なんかハエがいるんですけど、キモいー
生徒F:うわっほんとだ。Aの席のところに止まってる
生徒G:まじハエとか勘弁してほしいわー。テンション下がる
生徒A:そんなに嫌がるなよー
生徒EFH:・・・っっっ!!(無言でびっくりする)
生徒A:俺はさっきから自分の席に座ってますよ先生
生徒E:え?どういうこと?A君の声が聞こえる・・・
生徒B:いやー、俺達もさっき気がついたところなんだけど、どうやらAはハエらしいんだよね
生徒C:その説明はさすがに不親切過ぎる!
生徒C:どういうわけだか分からないんだけど、Aの姿がハエに見えるようになったらしい。でもいまみんなが聞いたようにAは普通に会話もできるし自分の意思で動いたりもできるみたいだ。だからまあ、基本的にはAがそこにいるのと同じだと思えばいい。
生徒E:思えばいい、て言われてもねえ
生徒A:ま、そういうことらしい。なんでこうなったのかは俺にもよくわからん
生徒F:なんでそんなに簡単に受け入れられているのかが謎だわ
生徒B:まあ、見た目がハエなだけで普通に話もできるしなあ。別に大した問題じゃなくね?
生徒G:A本人にとっては大した問題だとは思うが、まあAが受け入れてるなら俺はべつにいいけど
先生:話はまとまったか?じゃあ授業始めるぞ−
生徒E:先生、こんな大問題をあっさりまとめすギィ!!
先生:本人がいいって言ってるんだからいいだろ。じゃあ授業始めるぞー。・・・Aは・・・(Aが鉛筆を持つ)おお、すごいな。ハエなのに字が書けるんだな・・・。

一日の授業が終わり休み時間へ(チャイム音)
生徒Aが複数のクラスメートに囲まれている

生徒A:「超スーパーデラックス回転ジャンプ!!」
生徒たち:「すげえええ!
生徒A:「超ウルトラゴージャス反復横跳び!!」
生徒たち:「うおおおー!」
生徒A:「超ミラクルマーベラス腹筋!!!」
生徒たち「やゔぇえええ!!」

(少し離れた所でA達の様子を見ながら)

生徒B:たった一日でハエのAがみんなに完全に受け入れられている・・・!
生徒C:みんなの寛容度が半端ないね
生徒B:まあ、当の本人のAのノリが軽いからだけどなー。ほんとならもっと悩むだろ
生徒C:まあねえ。悩んでも仕方ないって思ってるんだろうけど
生徒D:まったく、得な性格してますねえ
生徒B:そういえば名探偵、お前、今朝俺たちと話してる時になにか言いかけてなかったか?「我々の目にはハエがそこにいるようにしか見えていない。つまりこれは・・・」って。あれは何を言おうとしてたんだよ?
生徒D:さすがB君は目ざといですね。あのときはこの現象に対する私なりの結論を言おうとしていたんですよ
生徒BC:結論?
生徒D:まあ結論といっても原因が分かるわけじゃないんですけどね。見ての通りA君は自分がハエになっていることの自覚はない。恐らく人間だった時と同じように意識をして体を動かしているし、話もしているはずです。でも我々の目にはA君の姿はハエにしか見えない。
生徒C:まあ、そうだな
生徒D:つまりここから導き出される結論としては、「A君自身は何も変わっていない」です。
生徒B:いや、それはないだろ。明らかにあれはハエだ。
生徒D:そこですよ。ハエそのものに変質しているなら、A君は喋れるはずがないしそもそも記憶が残っているかも怪しい。自分の意思で体を動かすなんてできないはずです。でもそれがA君にはできている。つまりですね、私が言いたいのは、A君そのものは何も変化していない。でもA君を見ている我々の方が何らかの影響で変わってしまって彼をハエとしか見られなくなっているということです。
生徒C:どういうことだ?
生徒D:A君が原因なのか別の何かが原因なのかは分かりませんが、我々が「A君」を認識する意識自体が変化してしまったせいで、本来なら人間の姿に見えているはずのA君が我々にはハエにしか見えなくなっているのですよ。簡単に言ってしまえば、我々は「ハエ」というスクリーンを通してしかA君を見られなくなっている、という感じです。
生徒B:うーん、まあ辻褄は合っているとは思うが、そんなことあり得るか?
生徒C:生徒全員に一度にそんな細工をするなんて不可能なんじゃ?
生徒D:私の推理もここまでです。ただ、私が思うにこんな現象が起きている原因はA君にあるような気がしますけどね・・・

少し離れた場所で生徒BCDの会話を静かに聞いていた生徒Hが話しかける

生徒H:・・・さすがだね名探偵。ほぼ正解だよ
生徒D:H君。正解とは一体どういう??君がなんで正解を知っているんですか?
生徒H:そりゃ犯人が僕だからだよ。決まってるじゃないか!
生徒BCD:・・・!!

生徒H:おい!A!
生徒A:なんだ?H?どうした?急に大きな声出して
生徒H:なんで!君は!そんなに楽しそうにみんなと遊んでんだよ!!!
生徒A:え?なんでって言われても・・
生徒H:ハエだぞ!君はハエになってるんだよ!もっと大騒ぎしろよ!
生徒A:いやまあそれはそうなんだけど、大騒ぎしてもどうにかなるもんでもないしなあ
生徒H:みんなも!なんでそんな簡単にAを受け入れてるんだよ!ハエだぞ!虫なんだぞ?
生徒たち:いやだってこいつすげえし。だってお前、ハエが反復横跳びすんだぞ!見たことないだろ?
生徒たち:ハエの腹筋もな!世界初だろ。
生徒H:そういう問題じゃないだろ!ハエだぞ!もっと気持ち悪がれよ!!
生徒H:だいたいA!なんでお前がハエになってるんだよ!
生徒A:なんでって言われても困るぞ。俺が聞きたい。なんで俺がハエになってるんだ?
生徒D:きっと何か原因があったはずなんですが、昨日から今日の間で何か変わったことはありませんでしたか?
生徒A:変わったこと・・・?うーん、別になにもないけどなあ。いつもとおなじように授業受けて、部活して、そんで家帰ってメシ食って勉強して寝ただけだし
生徒D:ほんとに何も変わったことは無かったですか?例えばいつもと違う道で帰ったとか、いつもと違うものを食べたとか・・

生徒A:あ!!!
生徒D:なんですか?
生徒A:そういえば、昨日部活終わって着替えてる時に変なジュースがあって飲んだわ・・。でも味は普通のスポドリだったから別に気にしなかったけど、あのジュースの缶の裏にテストって書いてあったな。なんだったんだあれ?

生徒H:!!!!!!!!

生徒H:君は!あれを飲んだ・・のか??
生徒A:え?飲んだけど?何?
生徒H:あれは僕が作った薬品のサンプルだよ。
生徒D:薬品?ですか?
生徒H:そうだよ。僕が精製した薬品のサンプルさ。計画のために必要な薬品の精製方法を開発してからずっと動物実験を繰り返してきたんだ。昨日は最後のテストのために学校で飼っている鶏に飲ませる予定だったんだよ
生徒B:計画に必要な薬品て何のことだよ?
生徒H:いまみんな体験してるじゃないか。
生徒C:体験?どういうことだ?

生徒H:みんながAを見てるのにハエにしか見えてないだろう?これはそういう薬さ。薬を飲んだ者は特殊な香りと音声を体から放つように体質が変化する。この香りを音声は周囲の人間の脳に直接作用して視覚を支配する。要するに、Aは人間のままだが、Aを見ている周りの人間にはAはハエにしか見えなくなるっていう薬だよ。
生徒A:なんで俺にそんな薬飲ませたんだよ?
生徒H:飲ませるつもりなんかなかった!君が勝手に見つけて飲んだんじゃないか!おかげで最後のテストができずに焦ったんだぞ!
生徒H:だいたい、なんで外に置いてあるジュースなんか飲むんだよ?普通飲まないだろ!誰ものものか分かんないんだし。「変なもの拾って食べちゃいけませんよ」て親に教えてもらってないのか?
生徒A:いやあ、まあそのとおりなんだけど、部活終わりですげえ喉乾いてたし、キンキンに冷えててうまそうだなーって思って・・・
生徒H:そりゃ冷えてるよ!冷凍保管庫から出してきたばっかりだったんだから!
生徒A:もう飲んじゃったもんは仕方ないとしてだ。で、お前の計画って一体何なんだよ?

生徒H:僕の計画?そうだね。もうみんなには教えてあげてもいいかな。
生徒H:僕はね、小学校の頃にひどくいじめられてたんだ。物事をはっきり言えない性格だし、人前に出るのは苦手だし、スポーツも苦手で動きも変だったから、小学校の同級生達には気持ち悪がれてずっと「虫、ハエ」て呼ばれてた。言い返す勇気も無かったからずっとやられっぱなしだったけど、いつかいじめたやつらに仕返ししてやろうと思ってた。僕は昔から化学は得意だったし、お父さんの仕事の関係でいろんな薬品も自由に家で使えたから、毎日毎日仕返しするための薬の研究に没頭したよ・・。結局、小学校にいる間に研究は終わらなかったけどね。でも中学に入ってからも研究はずっと続けた。毎日毎日。
生徒B:そう言えばお前、学校終わったらいつもすぐ帰ってたよな。部活もせずに。
生徒H:そんな暇なかったからね。同級生なんかと話してる暇もない。僕の頭の中は薬品を完成させることでいつもいっぱいだったんだ。そして、ようやく薬品が完成したんだ・・・。僕をハエとバカにした奴ら全員に仕返しできるこの薬品が・・!
生徒A:それで学校でテストしてたってことか・・
生徒H:そうだよ。小さい虫から繰り返し実験したんだ。アリ、バッタ、ネズミと成功して、最後のテストに鶏の予定だったんだよ。
生徒A:で、そのテスト用の薬品を俺が飲んじゃった、と
生徒H:お前のせいでテストは台無しだ。まあでもほとんどのデータは取れてたから問題ないけどな。薬品は完成した。そして計画は実行される。

生徒D:君がこの事件の犯人であることはわかりました。でもまだ重要なことを教えてもらってないですね。君の計画、とは具体的に何なんですか?
生徒H:簡単なことさ。Aが飲んだ薬と同じものを世界中の人間に飲ませてやるんだ。そうすればどうなると思う?世界中の人間が、相手のことをハエとしか見れなくなる。見た目が良いとか、動きがキモいとか、そんなこと世界中全員関係なくなるんだ。素晴らしいだろう?もう誰も外見でバカにされない世界!最高だ!!

薬品の入った爆発物っぽい箱を取り出すH

生徒H:これがそのための装置さ。Aが飲んだ薬品を100倍に濃縮したものがセットしてある。この装置でこいつを圧縮してやれば、爆発して少なくともこの学校の周囲5kmくらいの範囲で効果が出るはずだ。これで俺のことをみんなバカにできなくなる!ふはは!ふははははははは!

無言で少し間をあける

生徒A:お前がなんでこんなことをやろうとしたのかはよく分かった。お前をいじめたやつらは最低だ。でももうお前は小学生じゃないし、お前のまわりの人間は誰もお前のことバカにしてないぞ?
生徒H:え?
生徒B:そうだな。ていうかむしろお前は化学のことよく知ってるし、みんなお前のこと授業中も頼りにしてるだろ
生徒H:頼りに・・してる??
生徒C:そうそう。テスト前にもみんなお前に教えてもらってたじゃん
生徒H:いや・・あれは・・どうせ俺なんかハエみたいなやつだし、みんな俺のこと利用してただけだろ
生徒D:馬鹿にしないで頂きたい。我々は誰も君のことなんかハエだなんて思っていないし利用しようなんて思ってないですよ。我々はもっと優秀です。
生徒E:そーだよー。てか、中学にもなって外見で人のことバカにするやつとかいないでしょ。
生徒H:そんな、でもみんな俺とはあんまり一緒にすごしてくれないし・・
生徒F:そりゃお前、計画?のために毎日チャイムなったら速攻で帰って誰とも話してなかったからだろ。俺はお前に色々話したいことあったんだけどな。
生徒H:え??俺ともっと話したい?てっきり俺はみんな俺のことバカにしてると思って・・・
生徒A:それはお前の思い込みだよ。このクラスにはお前をバカにするやつなんていないって分かっただろ?ハエの俺が言うんだから間違いない!
生徒H:Aはこんなことをした俺のことを怒ってないのか?
生徒A:まあ最初は戸惑ったけど、話聞いたら見た目が変わっただけみたいだし、なんとなくみんなも受け入れてくれてるしなあ。それに、お前が作った薬品でこうなったんなら、お前が解毒薬も作れるだろ。
生徒H:A・・・。
生徒A:そんなわけで、もうお前の計画は実行する必要なんか無いんだ。さっさとその装置片付けてみんなで帰ろうぜ。

急に警報が鳴り始める
装置から赤い光が点滅

生徒B:この音はなんだ?

生徒H:えーと、大変申し上げにくいのですが、この装置があと5分で爆発するっていう警報です・・・
生徒C:なんでだよ?いまいい感じに「一件落着」な雰囲気になってただろ!なんで装置が起動してんだよ??
生徒H:実はですね、あのー、この話をし始める前にワタクシ、「ポチッ」としておりまして・・・。もう押しちゃってたので、最初に「もう計画をみんなに教えてあげてもいいかな」と申し上げた次第でございまして・・・。なんか良い雰囲気にして頂いたのに申し訳ございません
生徒BC:いえいえ、ご丁寧にどうも(ペコリ)・・・・じゃない!!なんで最初に押してから解説してんだよ。この手の話ってのはそういうんじゃないだろ!犯人が改心して一件落着だろ!
生徒H:いやあ、まああの今朝ですね、AがハエになったときにEとGがですね、「ハエがキモい」とか「テンション下がる」的なことを言っておりましてですね、あー、やっぱりこいつらもハエが嫌なんだ、つまり俺がキモいんだな、と思いまして・・、それでポチッとさせて頂いたわけです
生徒E:まあ確かにキモいって言ったけど、あれはその、衛生的に良くない、ていう意味で言っただけでべつに個人に対して悪口を言ったわけじゃないでしょ!
生徒G:そうそう。テンション下がるってのもべつにお前に言ったわけじゃないしな。いや、だいたいハエはすげえだろ。人間のまばたきの50倍の速さで回避運動ができるんだぞ。そんな超高速移動できるやつなんかなかなかいないだろうが!
生徒B:そんなこと言ってる場合じゃない!
生徒C:H、どうにか止められないのか?
生徒H:止めることは考えてなかったから停止方法は設定してない。無理だ
生徒F:そんな、もうどうしようもないの?
生徒D:可能性は低いですが、方法があるかもしれません
生徒B:なんだ?
生徒D:要は圧縮前に薬品を無くしてしまえばいいんです。装置には見た所爆発物はないようですから、単に薬品に圧力をかけるだけなんでしょう。ですから、圧力をかける前に薬品を取り出して処分してしまえばいいんですよ
生徒H:それは無理だ。この濃縮した薬品はとても不安定だ。空気中に取り出したらすぐに崩れてその場に影響がでるぞ。圧縮しなくてもある程度の範囲で効果が出てしまう。
生徒D:そうなると、残念ながら方法は1つしか残されてないですね
生徒B:まだ何か方法があるのか?
生徒D:はい。かなり危険ですが、方法はあります。A君にやってもらうんですよ。
生徒A:俺?俺に何かできるのか?
生徒D:H君の話では、A君が飲んだ薬品はこの装置に入っている薬品を薄めたもの。ということは、A君の体にはこの薬品に対する耐性が生まれている可能性が高いです。ワクチンを打ったようなものだと考えれば良いでしょう。ということは、A君なら、この薬品を体内に取り込んでも耐えられる可能性が少しはある、というわけです
生徒A:体内に取り込む?・・ってことはつまり?
生徒D:はい。食べるんですよ。装置から取り出した薬品をすぐに食べてしまえば、空気中に晒されることも無く、周囲に影響が出ることも防げるかもしれない
生徒H:いや、それはさすがに危険すぎる。100倍濃縮だぞ?食べたりなんかしたらどんな影響がでるか分からない
生徒D:でもこのままではあと1分程度で周囲の人間全員に薬品が広がります
生徒H:それはそうだが・・
生徒B:さすがにAだけにそんな危険なことはさせられない
生徒C:そうだな
生徒E:うん、でも・・・
生徒G:みんなハエかー

生徒F:・・・・・
生徒たち:・・・・・・・

沈黙

生徒A:わかった。やるよ。昨日飲んでも大丈夫だっただし、たぶん今回も大丈夫だろ
生徒B:よせ、危険過ぎる
生徒D:でもこれが可能性のある唯一の方法です
生徒C:そうだけど、いくらなんでも危険だろう
生徒A:大丈夫だって。少しでも可能性があるなら試してみたいしな。やらないで後で後悔するよりはマシだろ

生徒B:A・・・
生徒A:てなわけでやるわ。H、その装置貸せよ
生徒H:A・・・、ありがとう
生徒A:気にするな。それにみんなもハエの俺を普通に受入れてくれてありがとな。おかげて落ち込まずに済んだわ。
生徒たち:A・・・
生徒A:じゃあ残り時間も無いし、やるわ。みんな危ないから離れてろよ

(生徒たち離れる)

生徒A:いっせーのーで!!(装置を明けて薬品を取り出して食べる)

照明黒赤点滅

生徒A:ぐわー。

(苦しそうに転げ回る)

照明黒赤点滅→暗転


生徒の自宅
Aがベッドの上で目覚める

生徒A:ふわー。よく寝た。もう朝か・・・。なんか変な夢を見てたような気がするなあ。どんな夢だっけ?うーん。いまいち思い出せない。

(時計を見る)

やべえ。もう登校まで時間がない。さすがの俺の脚でもギリギリかも!
(急いで支度して出かける)

登校

生徒A:おはよーす
生徒B:おー。おはよー。
生徒C:おはよー
生徒A:なんか昨日変な夢見たような気がするんだけどさ、全然思い出せないんだよなー
生徒C:はは、あるある。だいたい夢って忘れてるよな
生徒D:A君、夢というのは実際の記憶から作られるという説があるんですよ。つまりここから導き出される結論は、実際に君がその変な体験をした、ということなんじゃないですかね?
生徒A:うるせえよ名探偵。依頼される前に推理するんじゃねえ。
生徒B:まあまあ、そろそろ先生来るぞ−。夢の話はそれくらいにして、テスト対策しとこうぜ

先生:よーしお前ら、大好物のテストを始めるぞー。
生徒たち:えー

・・・・・
・・・・
・・

(無人の教室)
(教卓、生徒の机の上には小さなハエが1匹ずつ)

(終)

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