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米津玄師「LOST CORNER」感想|今回もどこへも行けませんでしたけども。

私が米津玄師のアルバムで一番聴いたのは「BOOTLEG」なのだけども、「LOST CORNER」も負けず劣らずっていう感じなので、備忘録がてら。この感想は解釈ではなく私のフィーリングなので、本人のインタビューとかと乖離してても許してくれ。

アルバム全体の印象としては、最初から最後まで、車に乗ってどこかへ行こうとしてなんかいろいろなくしまくって結局どこへも行けませんでした、みたいな感じ。米津の曲がどこへも行けないのはいつものことなんだけど、なんかめっちゃ食ってるし、食べるということは生きるということと直結していて、どこへも行けないけど失っていく一方だけどまあ手の届く範囲でそこそこ楽しくやる方法も身に着けましたよ大丈夫なんとか生きていきますよ、と軽快に笑っているなあと思った。孤独は埋められないけど、それすらもまあ、生きていく上で携えていきましょ、先々で誰かに出会って一瞬を分かち合ってさよならって別れてその繰り返しで、そうやって行こうや、的なふうに私は聴いている。「STRAY SHEEP」のときの深刻な重さは全然なくて「BOOTLEG」より洗練されたなって気がする。

後書き:全部にコメントをつけてみた。殆どがタイアップで無関係なのに、上手いことストーリーができてて面白いなと思う。米津の「どこへも行けない」って、結局「ワタシ」に戻ってくるしかないということなのかもしれないなあと思ったりなんなり。


1.RED OUT

そもそもロストはオープニングトラックがめっちゃいい。お行儀のよい米津より斜に構えて舌を出している米津のほうが助かる。
リフレインする「消えろ」が印象的だけど、曲のテンポの速さ、早口言葉みたいな歌詞、「ハウメニー 人の祈りにつく高値/踏み躙られて泣く少年/下卑た顔で笑うプレジデント」「鮮血煌めいて跳ねるスタインウェイ and サンズ」とか他者を蹂躙しながら忙しなく進んでいくこの世の地獄みがすごい。人の祈りにつく高値ってどうやったら出てくる歌詞なん。むかつく。

痛覚を開いて今全霊で走って行け
万感の思いでファンファーレまであとジャスト八小節

ここからアルバムは旅に出る。収録曲の殆どがタイアップ曲なこともあり、独善に身悶えて堪え難く絶叫する人間が、他者と交わって最後に何を見るかを予感させていると思う。ライブ一曲目がこれだとぶち上がりそう。


2.KICK BACK

リリース時から聴きまくってきたので今更特に言うことはないキックバ。労働しているときはいつも心にキックバですよマジ。幸せになりたいし楽して生きてたい。


3.マルゲリータ+アイナ・ジ・エンド

アルバムのフィーチャリング楽曲って私あんま好きじゃないんだけど(聴きたいのはあなたではないんですよねーってなってしまうので)、マルゲリータは好き。あ、一人で出発したけど途中で女拾ったんですね、と思って聴いている。車の中でマルゲリータ食べたら臭い凄そうだし手はべったべただろうしハンドル握りたくねえなまあXOXOなら仕方ないですねそうですか。金原ひとみの作品も不倫相手とずっと食べてるし、全然読み進められない「BUTTER」も食べて食べて寝てみたいな感じだし、こういう作品に触れるたび(最近よく遭遇するんだよなあ)食欲と性欲の同体性と人生の混沌について考えている。


4.POP SONG

これもリリース時に結構聴いたやつなので。お腹いっぱいになったのでとりあえず軽快にステップ。


5.死神

リリース時に(以下略)。軽快に歩いていたけどやっぱりこの人生が続いていくと思うとしんどいっすわ、いつまで続くんですか?


6.毎日

(以下略)なんですけども、いいよねえ「毎日」。あのさ、それなりに頑張ってきたんだよ、でもこのそこはかとなく報われない日々が変わり映えなく続いていくわけじゃないですか、まだ愛していけるでしょうか。丁寧に書けばそういう曲なんだけど「わかってんだクソボケナス」と吐き捨てるから、アルバムとしては冷静になったわけではなくて全然RED OUTの流れだなって思う。まだ世の中を半眼で見ている。


7.LADY

私はさーーーLADYがーーーーー大好きなんだよねーーーーーーーー!!!
歌詞ではなくてメロディや曲調が大変に愛い。ピアノが軽やかに踊るように流れていって、リピート再生すると曲の終わりから違和感なくまた前奏に戻ってこられる。日々が続いていくことが歌詞ではなく構成で表現されていて本当に良い。あなたと一緒ならぼんやりした今日だとしても続いていっていいような気がするよね、の足取りが美しくて、ハァLADYが好き。LADY聴いているときの私は「米津……好き………………これは……恋……………………???」ってなってる。聴き終わると悔しさでのたれうちまわっている。


8.ゆめうつつ

キックバから(マルゲリータ飛ばして)ゆめうつつまでは、本当にリリース時にたくさん聴いたので、アルバムの構成があまりにも私向けすぎて、最初に聴いたときは「私信……?」みたいな気持ちになった。LADYからのゆめうつつ、「また会おうよ」と優しく別れるところがいいなと思う。マルゲリータは一夜っぽいけど、LADYとゆめうつつはそれなりに日々を重ねた相手との暮らしっぽさがあるよね。まあこれは妄想なんだけど。
旅はまだ続いていく。


9.さよーならまたいつか!

ここでまた自分について考えるターンに戻ってきた感じ。この曲は朝ドラ「虎に翼」とセットで語られるべきと思うのであれなんだけど、朝ドラ主題歌は米津玄師だよ!って告知されたときにまだ完成していなかったの今思い出しても面白い。ヤケクソタイトルかよってゲラゲラ笑ったあの日が懐かしく、とらつばを見終わった今となってはもう……。たぶん本当に直前に完成したのだろうに信じられないくらい深くドラマを解釈していてなんなんおまえという気持ちです。
曲調はすごく米津玄師だなって思う。歌詞の怒りの表明とか、あと途中に変な声入っているし。穏やかで優しいLADY、ゆめうつつの後に聴くと「いや全然米津玄師でしたわ」と。


10.とまれみよ

これこの間からツボにハマって聴くたびに笑っている。RED OUTで飛び出した車はまだ全然東京近郊を走っていておまえまだこんなところにいたんか! って。「側を過ぎるディズニーシー」がね、面白いよね。「乗り掛かったが最後 無事に帰れると思うなよ」と言われるので、帰れないっすわ、他のどこかに行きたくても行けないそれは全てディズニーシーのせい、なぜディズニーシーの側を走ったのかおまえはとか独りごちて笑っている。そんな意図の歌詞じゃないけど。てか歌詞的にはディズニーシーよりランドのカリブの海賊って感じ。おおいにDオタなせいでツボにハマっている。
そこを別にしても「花火がしたい コンビニ行きたい」あたり、車運転しながら聴いているとコンビニ確かに行きてえなって思うし、夏の終わりのリリースだったので、花火かー夏らしいことなんもしてないなーとか考えたりして、やたらめったら日常に近接した曲だと思う。RED OUTは全貌の見えない「世の中」って奴への鬱憤だったけれど、とまれみよは続いていく生活に対する鬱屈と発散っぽい。


11.LENS FLARE

よく聴く曲からとまれみよみたいな印象強めで来たので、個人的には急にフッと気配が消える。レンズフレアだから目が眩んでいるのは仕方がないのかも。「そんな目で見んなうざい」がやたら耳につく。
なんかさ、きれいな言葉では救われないときって存在して、でもアルバムの殆どはタイアップ曲で「誰が聴いてもそこまで不快にはならない」身綺麗だから、書き下ろし楽曲の本音っぽさに息ができる気がするんだよね。助かる。どこへも行けなくても、自分の本音を誤魔化さずに吐露することで、ここを生きていける。


12.月を見ていた

これ聴いて寝ると、朝ずっと頭の中で流れる。アルバムはここからバラードモード。月を見ていたはさよならするわけだけど「共に行こう、たとえ別れたとしてもまたきっと恋に落ちる、また会おう」の曲ががらくたまで続くので転生セトリみたいだなって思っている。


13.M八七

(以下略)。この曲を聴くと作品へのバカ高解像度にオタクが発狂して米津のことを素直に好きと言えない私のような人びとが他にもいたんだなあと思い出して安堵します。美しくていい曲だよね。


14.Pale Blue

アルバムの中で唯一微妙と思っている。


15.がらくた

「例えばあなたがずっと壊れていても 二度と戻りはしなくても」美しかったものががらくたになりそれでもやっぱりそれを愛おしいと思うものなんだよな。きれいなことを言おうとしたけど全部は繕えなくて「嫌いだ」って吐いちゃうところが好き。


16.YELLOW GHOST

転生セトリ、ここで完全にさよならする。


17.POST HUMAN

転生セトリが完結したので「POST HUMAN」はポストヒューマンですよ、既存の人間の次の時代。しんと静かに淡々とした調子の音楽、AIが歌っているような歌詞。そして誰もいなくなった。表題作「LOST CORNER」は別にあるわけだが、個人的には、この曲が一番「遺失物集積所」感がある。
振り返ると、ありのままじゃ生きられなくてここから消えてしまいたかった「LENS FLARE」から転生セトリに入って「YELLOW GHOST」で死体になってここには誰もいなくなる流れ。車で旅に出たのに時空の話になった。日常の逃避行から意識の逃避行っぽい。


18.地球儀

映画見てないので初めてまじまじと聴いた「地球儀」、POST HUMANの後に聴くとあの頃を振り返りつつ現時点を確認する、みたいな印象を持つ。これでよかったのか今は正しいのかを問いながら。現実を哄笑して走り出した車、人を拾い人に出会い人と暮らしていろんな自分を生きて失った末、地球儀を回して我に返っている。「光さす夢を見る」。


19.LOST CORNER

んで、改めて意気揚々と「探しに行こうぜマイフレンド」。この歌詞、やっぱり結局どこへも行けずに私はまだ東京近郊にいたんだなと思っているけれど人によりそう。二日酔いしているから「月を見ていた」から「地球儀」までは夢かもしれない。

夢も希望も不幸も苦悩も全て まあそれはそれで

どこへも行けなかったかもしれないけど、出会っては別れて失っていくばかりだけども、それはそれなんですよ、なんかまあ、こんな感じで日々は続いていくし何だかんだ生きていくわけですよね。ギターなくしたのは実話っていうのだけはインタビューでチラッと読んだ。もっとどこか違う空の下を生きることもあるかもしれないよね。
LOST CORNER、私の大好きな「Nighthawks」の朝ver.感があって好き。ああこの人は、あの夜から抜け出したのかもな。少し寂しいけれど、そうだったらいいな。


20.おはよう

インスト。壊れかけた音でも鳴ってることには違いねえ。


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