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ソルティ・ドッグ

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塩日記2020
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#音楽

私を真夜中から連れ出すヨタカ

BOOTLEGのカバージャケットがエドワード・ホッパーみたいだと人に言われて、見てみたら確かにホッパーのようだと思い、ちょうどそのとき書いていたこの曲に米津は「Nighthawks」と名づけたらしい。シカゴ美術館に所蔵されているNighthawks(夜更かしする人々)はホッパーの最も有名な作品である。どこに建っているかも明らかではない夜のレストランPHILLIESで、一組の男女、一人の男、一人の店員が揃っている。 私は最初、米津がホッパーの作品からインスパイアされてNigh

アイカツ!楽曲に救われた私の話 − 「受け取った勇気でもっと未来までいけそうだよ」

病気らしいよ。メニエール病じゃないかって。とりあえず薬出して1週間様子見、でも発症してから半年近く経ってるっぽいから治らないかも、大学病院で検査しないとだめかもねって言われた。 子どものころから通っていた耳鼻科がいつの間にか移転していて、院長先生も世代交代し、まったく面識のない先生に言われた言葉を反芻しながら、広くなった駐車場の端っこに停めた車の中で、ポツポツと母親にLINEをした。27歳になって1ヶ月が経ったくらいのことだ。半年以上続いていためまいが段々ひどくなってきてい

あなたの音楽と詞が縺れるように

相変わらず、ヨルシカのアルバムの封は切っていない。ツイッターで「包ん読」がトレンドになっていて、それな、と思っている。 新しい曲をいっぺんに聴く、聴くというか解釈するというか飲み込むというか、が得意ではないので、米津玄師のアルバムの構成もすでに分解してしまった。カムパネルラ、優しい人、ひまわりだけが、iPodの選抜プレイリストに突っ込まれている。私の選抜プレイリストは常時11曲までと決まっていて、通勤時間にだいたい一周するように調整してある。TEENAGE RIOTはシング

菅田将暉と米津玄師の「まちがいさがし」のまちがいさがし

私は菅田将暉の歌う「まちがいさがし」が好きだ。どれくらいかというと、いっとき(おそらく2ヶ月ほどの間)、朝はこの曲しか聴かず、数日おきに行く一人カラオケで3時間ぶっ通し「まちがいさがし」しか歌っていなかったくらいである。 米津玄師「STRAY SHEEP」には、楽曲提供者である米津自身がセルフカバーしている「まちがいさがし」が収録されている。 インパクトの強いリード曲「カムパネルラ」から始まって、詞とリズムで捉えどころなくフラフラと舞い遊ぶ「Flamingo」、ドラマ主題

浜崎あゆみと私の孤独

「あゆが好きだ」と公言することは、「私は孤独だ」と告白することによく似ていて、私は、親しい友人にもほとんど話したことがない。 ▽▲▽ 2020年7月1日に放送された日本テレビ「今夜くらべてみました」で、社会学者の古市憲寿氏が「浜崎あゆみ」について熱弁しているのを見た。あゆが孤独に築き上げた一時代、その真っ只中で、彼女の音楽に救われて生きていた少女の一人だった私にとっては、氏の解釈には共感しかなかった。 「ayuの曲って、すごく暗くて孤独で、それがやっぱり、当時ウケたなっ

だから私は「馬と鹿」を聴く

これが愛じゃなければなんと呼ぶのか 僕は知らなかった 米津玄師『馬と鹿』は、夢をあきらめられない人の歌だ。 成功していない、勝利していない、どこにも辿り着いていない、だけど夢を捨てられずに、夢のために生きている人の歌だ。 夢追う人の歩みはけっして明るくない。前途洋々なんかじゃない。努力がかならず報われるわけじゃない。夢は、だいたいいつも、痛いことばっかりだ。叶わないことのほうがきっと多い。花はひらくか。ひらかないかもしれない。それでも「僕」は、あきらめきれずに追いかけてい

どこめざしてんのと訊かれても答えられないけど、私は音程を取りたい。

 自宅から目と鼻の先にカラオケがあるので、暇さえあれば歌いに行く。  平日は一時間、休日は満足するまでと決めているのだけど、たまに平日でも、うっかりしていたら三時間経っていたりする。同じ曲で。  我ながらすごい集中力というかなんというか。  歌がうまいのかへたなのかの二択なら、へたである。  いや、ほんとへた。  というのも、一度音を外すと外した音が気になって、そのまま軌道に乗れなくなるからだ。歌だけじゃなくて、習っているチェロもそうなんだけど。 思ったように音は出ないも

時間をかけて表現を愛する

「またそれ読んでんの?」 「いつまでその音楽聴いてるの」  そんなふうに私はよく呆れられる。本当の本当にのめり込むと、言葉や物語に運命を感じてしまうと、いつだって、永遠にそばにいられるような気がする。  好きになるととことん一途で、ほとんどよそ見をしなくなるのは昔からだ。毎日同じ作家の本ばかりを読んでいる。毎日同じアーティストの曲ばかりを聴いている。飽きないのかと訊かれるけど、表現の骨の髄まで「私のもの」にしないと気が済まないから、飽きるなんてことはありえない。  やが