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#キナリ杯

神さま、仏さま、孔子さま

その連絡があったのは、春の初めのとある水曜日、午前10時を少し回ったところだった。 毎週水曜10時に定期訪問する得意先の駐車場に車をとめていたときだったから、間違いない。 スマホが振動していることに気づき、手に取ると「南児童相談所」の表示が目に入り、うひっと思わずのどから変な声が出た。 お願いだから切れないでとあわててシフトをパーキングに入れ、サイドブレーキを踏み、通話ボタンをタップする。 「もしもし瑛子さんの携帯でよろしいですか?南児童相談所の谷田部

愛する娘のでこっぱち

わたしの娘は、頭が大きい。 大きくて、かわいい。 笑顔でそう言えるようになったのは最近の話だ。 * 娘は、生まれたときから大きめだった。 むしろ生まれる前から産科医に「頭が大きめだから難産になるよ」と言われていた。 生まれてからも看護師さんや助産師さんに会うたび、「ご両親とも小柄なのにすごく大きいねえ」「指長いねえ」「親戚に外国の方でもいるの」などと、たくさん言われた。 正直なところ、わたしにとっては初めての子どもで、当時はよくわかっていなかった。ただ周りがあん

エストニアのタリンでおばあちゃんから聞いた「大人の学び方」の話

「大人にものを教えるってことはできないのよ。特に私みたいにおばあちゃんになってるとね」  初めて訪れたエストニアのタリンは、とても美しい町だった。魔術師みたいな黒い石像に、小さな石が並んだ道。細い通りの上には、瓦を並べたような形の細い橋が渡されていて、二か所の見晴らし台からは赤い屋根の町が一望できた。  事前に調べて行きたいと思っていた職人通りに着くと、そこは陶器や人形など小さなお店が並んだ広場みたいになっていた。店を一つ一つ見回った後、アンティークでいっぱいのレストラン