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2018年11月の記事一覧

あなたの頭撫でた嘘のような朝日だった

 ドアを開けて、粗く切り刻まれた無数の写真が雛を守る鳥の巣のように、座り込む彼女を取り囲んでいるのを見て、僕はもうここに居ることはできないと思った。彼女は俯いていて、眠っているようにも見えた。  僕はリュックサックを下ろして床に置き、刻まれた写真の破片を踏まないように気を付けながら、彼女のそばに寄って膝をつき、身をかがめた。彼女は眠ってはいなかった。真下の一点を見つめながら、荒く、静かな呼吸を繰り返していた。  彼女の名前を優しく呼びながら手をのべようとした時、まだ指先も上が

彼女が温かい紅茶を飲んでいますように

数年前、私はオンライン英会話にはまっていた。 何度目かの流産がきっかけで体調をくずし、会社も休職し、毎日家でぼんやりと過ごしていた頃の話だ。 初めのうちは、突然おとずれたその休暇をそれなりに楽しんでもいた。 朝起きて、仕事へ出かける夫を見送り、簡単に家事をすませ、散歩がてら図書館まで歩き、帰ってきて借りた本を読む。夕方が近づけば買い物にでかけ、そこそこ丁寧に夕食をつくり、夫の帰りを待つ。 そんな毎日。 平穏で、優雅と言えなくもない時間だったけれど、私はすぐ