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秒速2.5メートル

昨日、バスに乗り遅れそうになった。
運転手さんから目視できるかできないかの微妙な距離。
私は力の限り精一杯走った。
周りからはただとてとてと歩いているように見えていたかもしれない。
おそらく秒速2.5mほどしか進めていなかったかもしれない。

でも、私はあの時、間違いなく走る感覚を思い出していた。
周りからどう見えていたかは分からない。
”走っている人”という風には見えていなかったかもしれない。
でも私は杖をつかずにおぼつかない足取りながらも、自分の足だけで地面を蹴り前に進んでいたのだ。

「ああ、走るってこんな感覚だったっけ…」

残念ながらそのバスには乗れなかったが、また少し自分自身に自信を持つことができた。
私の身体は間違いなく成長し続けている。日々更新している。
この前できなかったことができるようになる。
そんな子供のころには当たり前のような前進を、大人になった今も私は感じ取れることができるのだ。
なんて幸せなことだろうか。

自転車に初めて乗れた感覚を、ずっと覚えていたい。
諦めなければ、昨日できなかったことが急にできるようになる。
人間はそれだけ無限の可能性に満ちている生き物なんだ。


”バスに乗り遅れた”
たったそれだけのことでたくさんの感情を抱くことができる。
人間とはなんと愛すべき生き物なのか。
なんてことない話。
だけど、私にとってはとても特別な話。

日々の些細な出来事に感動や幸せは詰まっているのかもしれない。
ふとそう思った日だった。

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