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『すみれ色の夜』

すみれ色の夜を、青白い月の光だけが照らす。コンクリートの桟橋を海に向かって、ひとつまたひとつと踏み出すたび足から呑まれていくような心地がする。

夏の蒸した空気の閉塞感と、海の匂い。ふいに息が出来なくなって、閉じ込められたまま標本にされる夢を見た。手のひらに溜めたすみれ色の水はさらさらと零れ落ちて、こんなに全部全部を溶かしたみたいな色をして、私のことは溶かしてくれないんだな。

誰かの視線が怖いよ。誰にも見られたくない。世界がこのままひとつの宝石になって、みんなみんなただの不純物になってしまえばいいのに。そうしたらこの夜を砕いて、宝物みたいに磨き上げてあげるよ。この1万カラットのアイオライトの夜の中で、私たちは小さな星屑だね。私もあなたも、ちっぽけで、くだらない、不純な内包物。ただ、きらきらと光るだけ。

『すみれ色の夜』


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