豊かさがじわじわと消えていく

 今年1月に引っ越しをしまして、半年が経ちましてぼちぼちです。

 最近の我が街のお気に入りは、引越し先から車でちょっと行ったところにある、雑貨が置いてあるタイプの少し大きめのTSUTAYAです。ニア・トーキョーに来てからしばらくTSUTAYAとは縁遠い暮らしをしていましたが、まさかまたここで邂逅するとは。
 社会人なりたての頃、部活に駆り出されてヘトヘトになった土曜の夜、(わざわざ)車を1時間くらい走らせて泉大沢の蔦屋書店に通っていました。別にそこで何かを買うわけではないんですが、気持ちを切り替えたい時や、夜の時間に物思いに耽りたい時なんかにとてもお世話になっていました。次の日は何もない日曜日、それに向けての助走時間みたいになったりしていたのかもしれません。心地よいはずです。

 夜に行くのがいいんです。人が少ないから、夜の静けさも相まって、まるであの広大な空間と数多もの商品を独り占めしたかのような気分になれます。もちろん、自分の部屋でも別にスマホいじったりゲームしたりすれば気持ちは切り替わらなくもないですが、部屋だと少し狭いなと感じた時、あるいは品数が少し足りないと感じた時の、あのTSUTAYAのお手頃感は絶妙に「ちょっとしたスパイス」的な趣があって、とてもよいのです。スタバとかドトールが入っていたりすると尚良いです。

 これがイオンとかベイシアとか、イトーヨーカドーではダメです。品揃えやインテリアにノイズが多すぎます。ニトリは意外といい線行っていると思いますが、基本的に自社ブランドの製品しか置いていないので面白みがないのと、遅い時間にやっていないのでこの文脈で言うとちょっと違う感じがします。
 雑貨が置いてあるタイプのTSUTAYAのちょうどいい具合が日常にあると、QOLに与えるプラスの影響がもう全然違います。社会人生活9年目に入っていますが、1年目からお世話になっていたことを考えるとこれはもう間違いない。ちなみに、雑貨の置いていないタイプのTSUTAYAは残念ながらチープすぎて微妙です。

 そんなTSUTAYAですが、仙台周辺ではだいぶ規模が縮小してきているようでした。この前仙台に帰省した時、実家の近くにあった2軒のTSUTAYAはどちらも閉店してしまっていましたし、泉大沢の蔦屋書店はなんと2F/3Fのフロアを一つにまとめてしまう!というなんともダイナミックな縮小が決行されてしまい、2階分の商品が所狭しと並べられていた2Fのレイアウトを見て「あの頃の思い出はもう無いんだな…」とかなり寂しい思いをしてしまいました。特に、泉大沢の蔦屋書店は出来上がった当時はかなり肝入りというか、大々的に報道がされていたと思いますし、コロナ禍もあってこんな風になってしまうのか…と思いを禁じ得ませんでした。

 TSUTAYAに限ったことではないですが、こういった実店舗の存在は今後もどんどん減っていくのだと思います。そりゃそうで、ネットで買った方が断然安いし楽です。自分自身、実店舗に行くには行きますが、そこで何かを買うということは基本的にはあまりなく、服にしてもバッグにしても本にしても、あくまで目星を付けるための実店舗というような感じになってしまいました。(ここまで書いて、ニトリが飲食業に進出し始めた理由の一つがなんとなく推察できるような気がしました)
 となれば、実店舗が縮小の動きになっていくのは当然、対面を避ける世間になってくればそんな動きが加速していくのも当然。そんなある種の資本主義的宿命の中にあって、なんというか、どんどん世の中のゆとりが消失していっているように思えてならないなと感じています。
 「買われるわけでもない大量の商品を置く」「人が来るわけでもない夜の時間に開けておく」なんていうのはある意味で物質的な豊かさの極地というか、コスパ的には超悪いでしょうから閉店していくのもやむなしなのかもしれませんが、一方でそんな豊かさをちびちびと享受することで明日への活力を頂戴していた自分にとっては、この時代の流れはかなりの痛手なのかもしれません。

 かといって大富豪のように趣味同然にそんな商いができるはずもなく、自分一人で貢献できる収益などたかが知れていますから、自分ができるのはせいぜい「閉まらないでね〜」と祈ることぐらいなので、無常を感じずにはいられないところです。

 一方で、サステナビリティな視点から言えばこんな大量消費の権化みたいなお店は減った方がいいのかもしれないなとも思いますし(実は集約されていった方が消費電力的にも良いような気がしなくもないですがこれはエビデンスがほしい)、自分1人のちびちびした明日への活力を維持するために80億人の未来を犠牲にするわけにもいきませんから、結果的には「ノスタルジア」という言葉に集約/記号化されていって、取るに足らないものとして風化していくのかもしれませんが。

 ひとつだけ言いたいことがあるとすれば、「効率」だけが優れた価値観として絶対化されていくような世の中は嫌だなあ、ということぐらいです。

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