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戸締まりのたび。

変わるもの、変わらないもの。この世界には、どちらも存在する。普遍的なものだけれど、最近より強く認識している。

このタイミングで出会えて良かった。
時間は流動的なもの。ひとの気持ちが絶対変わらない、なんてことは無い。時間はいつだって止まることは無い。前に進み続ける。そして、掴むこともできなければ、誰にも何にも抗えない。長さは違えど、ひとりひとり同じだけ授けられた概念。そこに、何を刻んでいくか、受け入れていくか、なんだと思う。
ただ、進み続ける。何があっても、変わらず動く。その確実さが、揺らがなさが、受け入れるしかないことが、どうしようも無く、淋しい。

「おはよう。」「おやすみ。」
「いってきます。」「いってらっしゃい。」
「いただきます。」「ごちそうさまでした。」
日常に溶けた思い出たち。形のないものたち。
ただ、そこに。自然の中に溶けた情景たちを想像すること。自分とは違う立場の人を思い描くこと。
3月のあの日から、止まった時間を動かすように。
いってきます。と言って、ただいま。と返すことができた人が、どれだけ居るのだろう。言えることなく、時間が止まったままの人がどれだけいるのだろうか。

3月のあの日をわたしはテレビの中の出来事でしか知らない。当時の記憶を覚えていない。産まれる前の随分前の9月の出来事を過去形でしか知らない。そして、生まれ育った街の戦争の記憶も、語り継げるほど知らない。いつか、誰かの記憶から、世界から忘れさられてしまうかもしれない。そんなのは怖すぎる。

風化させたくない。忘れさられたくない。伝承まではいかなくとも、ただ、知ることだけでも変わることがある。
無くなるわけじゃない。
すずめと草太さんとの戸締まりの旅に出ることで、私もまた、忘れてた大事なものをみつけた気がする。

すずめのあるセリフ。3月のあの日から、ずっとそんな事を思っていたのかな、とか、前に進むことも大事だけれど、忘れないこと、一緒に生きていくことも大事なんだ。って、忘れなくても、いつか出会えるよって、気づいたら泣いてた。
生も死も隣り合わせ。時間という概念があるから、永遠も感じることができるのかもしれない。同時に、進み続けてしまうから、知らず知らずのうちに、手からこぼれ落ちてしまうのかもしれない。流れ続けるなか生きる私は、風化させたくない記憶を持って、暗やみの中も光の中も進む。大丈夫。こわくたって。ひとりじゃない。いつか、光がさす。だから、だいじょうぶ。

この時代で、このテーマを描ききった監督、ほんとうにありがとう!原菜乃華ちゃん、松村北斗くん、を見つけてくださってありがとう。この映画を完成してくださって、ありがとう。
『すずめの戸締まり』に出会えて良かった。
明日を生きるお守りが増える、そんな映画だった。
どんな暗闇がやってきても。いまのわたしなら大丈夫な気がする。この、お守りがあるから。だから。大丈夫。

いってきます。

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