見出し画像

数少ないバレンタインのいい思い出

バレンタイン‥‥(遠い目)
好きな人にチョコレート及びプレゼントを渡した記憶がほとんど無い。
なんでだろう‥‥。


いや、わかっている。
ほとんどあげたことがないからだ。
いつも私の好きになるおじさんが、バレンタインだの誕生日だのにプレゼント交換をするようなタイプの人じゃ全然無いからだ。


たまたま2月14日前後に会うことになると、私は、
(チョコとか全然喜ばないだろうな‥‥)
(かといってチョコ以外のプレゼントを渡すのも、恋人気取りみたいでなんかアレか)
(高いものをあげたらきっと重いと思われるな)
(そもそも何かをあげること自体が迷惑かもしれない)
(でもこのお祭りムードの中好きな人に何かあげると思うだけでわくわくするし)
などと迷いに迷う。
そして結局当日は「なんか、そういえばバレンタインだったので一応チョコ買ってきてみました」的な軽い感じで、実はめちゃめちゃ考えて足を棒のようにしながら選んだチョコレートを笑顔で渡す、みたいなことになる。


最初から喜ばれるはずないと心構えはしているが、果たしておじさんはあまり驚きもせず、ちょっと笑って「ああ。どうもありがとう」などと言いながら小さな洒落たデザインの紙袋を受け取る。
持ち重りのしないプレゼントと同じぐらい、軽い受け取り方だ。
うん、わかってるわかってる、全然オッケイです。
私があげたかっただけですから。
お会いできただけで幸せです。
ホワイトデーとかもう全くお気になさらず。
(実際気にされたことがない)


そんな中。
プレゼントを喜んでもらえた数少ない思い出の一つを書きたい。


そのおじさんには奥さんがいなかったので、家に持ち帰るのも困らないだろうから多少大きいものでもいいかな、と思ってシャツをあげようと思った。
愛するおじさんへのプレゼントを本腰入れて選ぶのはとてもウキウキした。
某トラディショナルなブランドの路面店に行って、整然と並べられたシャツの棚をあれこれ眺めていたら、若い男の店員さんが感じの良い笑顔で話しかけてきた。
「どなたかへのプレゼントですか?」
「ええ、そうなんです。迷っちゃって」
「彼氏さんですか?」
「いやーなんかまだ微妙な感じなんですけども」
と私が照れると、
「あ!いいですね!どんな雰囲気の方ですか?」
「うーん、真面目な感じで、眼鏡をかけてて‥‥」
私がぼんやりしたことを言うと、店員さんは困りもせず「このストライプだったらどんな方でも似合いますよ」とか「ちょっと遊び心を出したものをプレゼントするなら、派手めですがこの太いチェックのものとか」などとアドバイスしてくれた。
「あ、でも60代の人なので、これはちょっと派手すぎるかな‥‥」
と私が言うと、店員さんは咳き込みそうなリアクションで
「エッ!!60代ですか?!‥‥だいぶ‥‥年上の方ですね‥‥!」
と驚いた。
その時店内には他にお客がおらず、店員さんも暇だったのだろう、そこからやけに話が盛り上がった。
「もともとものすごく年上の人が好きで‥‥」
「マジっすか?!え、どういうきっかけで知り合われるんですか?!」
なんというか、普通に会社の同世代の男友達と話しているのかと錯覚するぐらい、その彼は色々聞いてきて、私もおじさんに対する恋の悩みを話したりして、話が盛り上がりすぎて「何ならちょっと飲みながら続き話しませんか?!」とかお互い言い出しそうなぐらいだった。


相当長い間しゃべった後、結局、地味すぎず派手すぎない、私自身も好きなタイプのチェックのボタンダウンのシャツを買うことに決めた。
「きっとおじさまも喜んでくれると思いますよ!」
「そうだといいんですけども」
「なんかもう、ウチで買い物しなくていいですから、渡した時のことご報告に来てくださいよ」
と言われて、私も笑いながらお店を出た。


そんな風にして選んだシャツをドキドキしながらあげた時、おじさまはとても嬉しそうにしてくれた。
その場で包みをほどいて「お、かっこいい」などと言ってくれた。
そして次に会った時さっそくそのシャツを着て来てくれて、私はとても幸福を感じた。


もともとプレゼントにまつわる思い出の数が少ないので、買った時のことと彼が喜んでくれたことを両方よく覚えている。
あの時の店員さんには心からお礼を言いたい。
ものすごく年上の彼、とってもあのシャツ喜んでくれましたよ。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?