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おつかいつかいま

「ま、ハロウィンが近いこの時期は、あの世とこの世の境目が曖昧になるって言うから、こんなこともあるんじゃない?」
朝の散歩中の魔王(仮)と二匹の使い魔が、何もない空間にできた裂け目から覗く小さなマントとかぼちゃのようなものを眺めていた。これを引っ張り出したら面倒に巻き込まれるかも…と、使い魔達は一瞬考えたけれど、わが魔王様(仮)のご機嫌を損ねるのは怖い。子猫のような二匹が時空の裂け目から引っ張り出したのは小さなジャックオランタン。
「なんか、嫌な予感しかしませんよ…クッカ様」
長い尻尾をゆらゆらさせながらズッカと名付けられている使い魔が嫌そうに振り返る。
「これ、食べられませんね…クッカ様」
のんびりとした声でかぼちゃに鼻を近づけてくんくんしながら、同じく使い魔のペポが振り返った。二匹の視線の先にいるのは魔王研修中のクッカ。小さくて元気な彼女は人間界から魔界に召喚され、魔王研修なるものを受けさせられているが、当の本人がそれをどう思っているかは不明。

「おー!ハロウィンの象徴ジャックオランタンだ!いいねぇ。小さいジャックオランタンだから『ちびラン』って呼ぶね!」
自分の半分くらいのジャックオランタンをたかいたかいするみたいに抱きかかえてブンブン振り回すクッカ。
「あわわわわ!ぼ、僕には名前がありまぁ…わぁぁぁ!」
「いや、ちびランだから!」
うちの魔王様(仮)は人の話を聞かないから、ちびランくんも諦めてくれとばかりに使い魔たちの同情の視線が注がれている。それに気づいたかどうかはわからないが、振り回すのをやめて急に膝の上にちびランを座らせたクッカ。
「ねぇ、ちびランはどうしてあんなところに挟まってたの?どっからきたの?」
「おねえちゃん…あのね、人間界のハロウィンを見学しに行こうと思ってお父さんとお母さんとお出かけしてたんだけど、魔物とか人にぎゅうぎゅうされて…」
どうやら、お出かけで楽しいとはしゃいだのはいいものの、世界の境界ではぐれて時空の歪みと闇の入口に落ちたということらしい。そして、お出かけの行先は「池袋のハロウィン」。
「よし、場所がわかればそこに飛ばせるよ!でも…
私の力だとその場所までだから、ズッカとペポが親のとこまで連れてってあげな!魔力感じるとこまで行けばなんとかなるよ!」
「そんな…クッカ様が行けばいいんじゃ…」
「ごめんね、ペポ。魔王研修中だから魔界から出られないんだ」
「大丈夫!僕達が一人前の使い魔としてちびランくんをお送りしてきます!ね、ペポ!」

全員で一旦帰宅して準備に取り掛かるクッカ。黒いリボンに金の鈴を通してズッカとペポの首に結んでやる。自身の魔力供給が不安定だから、もしもの時の為に魔力を込めて2匹に持たせるらしい。最悪、禁止事項を破って2匹を迎えに行かないといけなくなるかもしれないからと、黒いワンピースに魔女帽子、しましまの靴下を履いてかぼちゃのカバンを持って完成。これでハロウィンの行列に紛れ込める!と自信満々に言っているが、単にハロウィンに参加してみたかった魔王(仮)だったのかもしれない…
「よーし!あっちに飛ばすよ!行っておいで!ちびランはもう迷子になっちゃったダメだよ。今度は遊びにおいでね。」
ちびランの両脇にズッカとペポを立たせ、ハロウィンの行列にGO!

飛んで行く間、ズッカはぎゅっと目を閉じて呟いていた。
「クッカ様が僕らを使い魔にしてくれた!だから、任務をこなして他の魔王にバカにされない使い魔にならなきゃ!僕らは小さくて中途半端な使い魔じゃない!できる!僕らはできる!」
不慮の事故で迷子の魂になった2匹を見かねて拾ってきたクッカが、ほかの魔王からあれこれ言われていたのを知っている。「小さい中途半端な出来損ないは、クッカにお似合いだ」だの「どうせ人間のペット程度で役割を果たせないヤツしか使い魔に出来ないから研修が終わらないんだ」なんてニヤニヤと言われていて悔しい。突拍子もないことを始めたりするけれど、仲間にも使い魔にも良くしてくれるクッカがズッカは大好きなのだ。悔しいのはペポも一緒なのだろう、2匹はいつの間にか長いしっぽと太くてちょっとまあるいしっぽを繋いでいた。

すとん!と目的地、池袋に到着。
クッカのことだから、ずどーん!って地面に落とされるんじゃないかと心配してちびランを守るつもりでいたらしい2匹は拍子抜け。
「あぁぁ!お父さーん!お母さーん!」
地面に降り立ったと思った瞬間、ちびランが手を振ってぴょんぴょん飛び跳ねた。計算されたように降り立った所にちびランの両親が立っていたのだ。散々お礼を言われ、お土産に東京バナナとごまたまごを持たされ帰路に着くことに。
黒いリボンの首の鈴を鳴らして、2匹で描いた魔法陣に飛び込めばそこはクッカの膝の上。
「おかえりー!ズッカもペポもありがと!」
ぎゅっと抱きしめられて、幸せな一人前の使い魔たちなのでした。

おしまい

おつかいつかいま(2000字)
【One Phrase To Story 企画作品】
コアフレーズ
『時空の歪みと闇の入り口』
本文執筆:花梛

~◆~
One Phrase To Storyは、誰かが思い付いたワンフレーズを種として
ストーリーを創りあげる、という企画です。
主に花梛がワンフレーズを作り、Pawnがストーリーにしています。
他の作品はこちらにまとめてあります。


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