創作短編：フラワーテイル*3 共有
4年ぶりに風邪を引いた。
しかもこの季節外れの暑さのなかで40度の熱はつらい、頭がぼうっとする。
もうかれこれ3日はこんな状態でウイルスと戦っている。
それをパートナーに言ったら、「え、オリンピアンだね」って。
ちょっと笑っちゃったけど、一番にそれ言うかな？
たまにそういうとこあるよね。まあ、今日お見舞いに来てくれるからいいけど。
20代までは病気なんかしたことなくて、朝から夜中までの長時間労働も平気だった。
けど30代になると、だんだん体に変化が起きてくる。
風邪が長引くようなったし、最低でも6.5時間は寝ないと疲れが取れなくなった。
筋肉もすごく大事。軽い運動と、プロテインでタンパク質を積極的に取るようになった。
それを友人に言うと、しみじみと共感してくれた。
しかも今はなんでも情報が手に入るし、どうすればいいのかがすぐ分かって良いよねって。
人って「簡単」とか「便利」になることに貪欲よね。ありがたいけど。
ふとサイドテーブルに飾ってあるガーベラのブーケをながめる。
カラフルできれいだから、ついスーパーのお花コーナーで買ってしまう。
仕事から帰ったときに見ると癒されるんだよね。部屋も明るい雰囲気になるし。
薄いブランケットをかけてベッドで横になりながら、他愛無いことをぐるぐる考えてるうちに、すごく昔の記憶が引き出された。
あれは私が短大に入るために上京したころ。
同じ学部に通ってたパートナーと知り合って、たまたま電話で話してたらこんなことを言い出した。
「・・・もらうなら、ゴディバがいいな」
当時の私は上京したての田舎者で、何のことか分からなくて「それ何？」って返した。
反応はなかったからスルーしてたけど、今はもう分かる。チョコが欲しかったんだね。そういえばバレンタインシーズンだったし。
わざわざ昔のことを蒸し返したりはしないけど、たまにそんなことをふと思い出す。
＊ ＊ ＊
ラインの通知音がして目が覚めた。
すっかり日が真上に昇っている。いつの間にかぐっすり眠ってたみたいだ。
≪体調大丈夫？仕事終わったらお見舞い行くけど、何か欲しいものあったら言って≫
≪うん、ありがとう。まだ熱でぼうっとする。欲しいもの…。あ、ダンデライオンがいいなあ≫
寝ぼけながらそれだけ答えて、また夢の中に落ちていった。
＊ ＊ ＊
ピンポーン。
「はーい。おかえりー」
のそのそと鍵を開けて出迎える。
「おつかれ。…まだ顔が赤い、寝てた方がよさそうだね。おかゆと桃缶、買ってきた。それとこれ、リクエストのやつ」
「ありがとう。・・・ん？たんぽぽ？」
「そう、探すの大変だったんだから。ダンデライオンて英語で言うから最初分からなかったけど、たんぽぽのことでしょ？」
思わずまた笑ってしまった。
違うよ、チョコレートのことだよ！
「ダンデライオンていうチョコレートのお店があるんだよ。あれ、知らなかったっけ？」
パートナーは軽く驚いた顔してる。
ごめんごめん、伝えるのが下手だったね。……なんかこの感覚、体験したことあるなぁ。昔とは立場が逆だけど。
「でも嬉しいよ、ありがとう。さっそく飾るね」
笑ったら元気が出てきた。
公園に咲いてたのかな？この時期にたんぽぽを探して摘んできてくれたことを想像したら、なんというか、いとおしさが込み上げてくる。
たまにこういうことあるからパートナーはやめられない。
花瓶の代わりにマグカップを用意する隣で、
「なんか昔もこんなことなかったか？」
とかぶつぶつ言いながら、おかゆと桃缶を開けはじめた。
＊ ＊ ＊
終
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好きなお店の名前お借りしました。おすすめです＾＾
●ダンデライオンチョコレート
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