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大切な人と、ひとつの急須を囲みたい。

ひとつのお茶を頼んだ。
猿島烏龍、一杯850円。
ちょっと高い。でも、メニューの中では1番安かった。
最近台湾烏龍茶にハマり、毎日のように飲んでいたのだが、地元にも中国茶の店があると聞きつけて母と祖母を連れて行った。いや、正確には母の車で連れて行ってもらった。
私の地元は決して都会とは言い切れないような街なので、珍しいと思い気になっていたのだ。
田舎の信号もない一本道を約20分走り続ける。雪道はガタガタと揺れるので、車の中の祖母の喋り声は一切聞こえなかった。
店に着いた。こじんまりとしていて、テーブルはわずか3つだった。
薪ストーブがあり、雪の中に埋まりそうな古民家なのにとても暖かかった。
私たちは中華粥と水餃子のセットを3つ。そして、私は猿島烏龍を一杯頼んだ。
茨城県のお茶だが品種は青心烏龍といって、19世紀に中国から台湾に持ち込まれ、今では台湾烏龍茶の主流の品種だそう。
飲んだことのある人はわかると思うが、緑色なのだ。
緑茶のような色合いで、お花のような香りがする。そして、何煎でも飲める。
一般的な日本茶だとせいぜい1〜2煎が美味しく飲める範疇だが、だいたい5〜7煎くらいは繰り返し同じ茶葉で飲むことができる。
私がいつも飲む時は、マグカップに直接茶葉を入れてお湯を3回くらい継ぎ足しながら、4煎目は水出しで楽しむ。
水出しだとより香りが楽しめる気がする。

猿島烏龍は、小さい急須と、湯呑みが3つ、ポットが1つのセットで出てきた。
中国茶器の名称で言うと、茶壺(ちゃふう)、茶杯(ちゃはい)、茶海(ちゃかい)だ。
急須で入れたお茶をポットに移し味を均等にする。そこから人数分に分けるのだそう。
台湾烏龍茶は好きでよく飲むものの、このようにして誰かと分け合うのは初めてだった。
お茶請けを皆でつまみながら、烏龍茶を飲む。
湯呑みはとても小さくすぐ飲み終わるのだが、また急須にお湯を注ぎ直し、すぐに何度も淹れることができる。
ひとつの急須を囲んでできるこの空気が、なんだかとても暖かく、思わず遠い中国へ思いを馳せてしまった。
まだ訪れたことはないけれど、遠い国の人も、今よりもっと昔の人も、きっとみんなこうしてひとつの急須を囲んでその味を、その時間を楽しんでいたのだろう。
なんて美しいコミュニケーションツールなのかと、感動してしまった。
これからも、大切な人とひとつの急須を囲みたい。そう思えるお茶だった。

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