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謎の長寿アニメ「親子クラブ」

永年さりげなく存続してきて、遂になくなったと分かったときにだけ何かを心にもたらすものが、世の中には数々ある。テレビの中に限ると、ぼくがそのてのもので真っ先に思い出すのは、エイケンが20年近く制作していた関東ローカルの5分アニメ「親子クラブ」(1994-2013年)だ。

日常生活のちょっとした知恵を紹介する(ミニ枠ではよくある)趣向を、敢えてアニメ主体でやっていた番組。エイケンといえば「サザエさん」を制作している会社として有名であり「親子クラブ」も長谷川町子作品っぽい画風や家族描写が特徴だったが。一つ、その一家に地球外生命体も加わっているという大きな違いがあった。

カレは、ロンパパと呼ばれていた。

名前と造形は明らかにバーバパパが下敷きだ(上の画像参照)。一方、空を飛べる・何かを模して身体を変形できるといった特殊能力や、片言でしゃべる・しばしば家族を振りまわすといったひととなりは藤子不二雄作品っぽかった。総じて、この番組には不向きなキャラである。

毎回一家のおばあちゃんが知恵を披露しているときに、近くではSFまるだしの黄色いヤツが音もなく変形したりするのだ。見た目がほぼ同じ息子のキャラ(ルンちゃん)は父親と違って賢い設定だったが、とかくカレらには地球上の理屈など無関係。番組の実用性に反する存在であり、だからなのか、ぼくは放送開始当初自分の日常サイクルに合致して数えきれないほど目にしていたはずなのに、紹介された知恵を一つとて思い出せない。黄色しか思い出せない。

なぜ地球の其処で居候しているのか?ということだけでも分かっていれば(設定が固まっていれば)劇中に溢れる情報量を整理できたかも知れないが。たったの5分弱しかないので、そのあたりについて番組は基本的にスルーを決め込んでいた(Wikipediaによると、最終回含む残り数回分だけは完結のためにSF寄りだったようである)。

そんなヘンテコなアニメが「親子クラブ」という無味無臭の番組名で、専らヒトがまともに起きているとは思えない夜明けの放送で、案の定一般には話題にあがることがなく、なのにどういうわけだか平成の半分以上存続していた。数年前“まだ続いている”とたまたま知ったときにぼくはハッとして、あらぬ感動と愛着を抱いたのである。

今日の地上波の民放は、朝から晩まで情報番組が主軸で隙がなさすぎる。再放送にしても“今クールの新作に関連したドラマ”だとか理屈がはっきりしている。

思えば、平成のはじめ頃までは時間の埋め合わせの仕方がヘンテコだった。ホコリをかぶった特撮、ディズニーでもワーナーでもない無名の海外アニメ、ヒットしたはずがない洋画、駆け足で終わる30分のクイズ番組、ターゲットを絞りに絞った民謡勝ち抜き番組、テレビゲームに興味なさそうな大人が司会のテレビゲーム番組、等々。

ああいうのって前述のとおり時間差攻撃で、だいぶ経ってから“案外好きだったかも”って気づかされるんだよな。広義に捉えれば、理屈がないものの存続が許されているという事実が心地よいのかも知れない。

テレビよ、もっとヘンテコであれ。ロンパパみたいに。

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