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遂げずばやまじ

 致知1月号 関東致知教師木鶏会感想文

遂げずばやまじ ー 目標を持ったら成功するまでは絶対にあきらめない,という固い決意の言葉である。

「致知」総リード文の初めにこう書いている。成功するまであきらめない美しい言葉である。しかし,前号の感想文でも取り上げたが,「アフリカの雨乞いは100%当たる」という言葉もあるように,成功するまでやるから実現するという笑い話もある。「遂げずばやまじ」という言葉には,ただ闇雲に努力することを美談にするのではない。その前後にある目標設定,取り組み方が重要であると考える。

「致知1月号」において,SBIホールディングス会長の北尾吉孝氏は,次のように述べている。

■過去に囚われる者は未来を失うといいます。成功体験に胡座を掻くことなく,常に新しいことに挑戦していくことが大事です。できる限り大きな夢を思い描き,それをいかに実現するか,懸命に考えるところから道は必ず開けていくと信じています。

私は,氏の言う「新しいことへの挑戦」という言葉にとても共感する。対談相手のセブン&アイ・ホールディング名誉顧問の鈴木敏文氏も,世間に流布しているビックデータに頼り過ぎず,自分を信じ,人真似でなく新しいことに挑戦することが成功にいたる道と述べている。これは,携帯電話の衰退にも当てはまる。2007年頃には市場が5兆円マーケットといわれた日本の携帯電話マーケットも,アイフォンにほとんど置き換わられた。日本のメーカーは客が望んでいるモノをそのまま作る「マーケティング」を主人とし,一方アップルは市場調査をせず「自分たちが作りたいもの」を作った。

つまり,ありたい姿を描けることが必要なのである。それが目標となれば,遂げずばやまじの状態に自然になっていくのではないだろうか。

今年度,私は教員とともに1年かけて「映像制作教育」のを推進している。教員が映画監督と連携して授業を構築している。もちろん,全国的にもほとんど実践例がない。2月に初めてこのようなテーマを扱った教育書が刊行されるほど,公立の小学校ではほとんど行っていない新たな挑戦である。なぜ,映像制作教育なのか。大きな理由の一つは,子どもの表現力である。これまで子どもたちが学習のまとめを表現する際に,模造紙やノート,紙芝居やワークシートにまとめることが多かったであろう。確かに,昔から行われているこれらの方法は,ある程度の学習成果を上げてきた。しかし,これらは紙にまとめる手段である。一度書いたらそれで終わり。つまり,子どもは書く前からまとめのゴールのイメージしていなければならないのだ。だから,要領のいい子はさっさと仕上げてしまい,ゴールのイメージを持てない子は全く鉛筆を持った手が進まず,最後の最後で時間が足りず慌てて少ない文字数でまとめ体裁を整える。これがデジタルであれば,まずは作ってみながら,後で調べたことや友達からリフレクションを受けたことを追加・修正しながら,「つくる」と「知る」のサイクルを回しより良いものを作り上げていける。結果が明かな昭和時代は紙でもよかった。しかし,予測不可能VUCAの時代を生きる子どもたちは,試行錯誤しながら問題解決をしていこうとする活動そのものが重要であると考える。

さらにデジタルを活用した映像制作を取り入れた理由に,今動画メディアの消費者となり衰えてしまいそうであることから脱したい目的がある。YouTubeやTikTok,テレビのバラエティ番組(最近の報道番組にもそういうものがある)には,ほとんど映像の下にテロップがある。視聴者はその文字を目で追っている。私のような世代はとても違和感を感じるが,同僚に聞くと,20代の教員は違和感は感じない人が多い。きっと小さい頃からこのような環境で育っているのであろう。情報を得るには効率が良いのかもしれないが,映像の表現に注目していない。映像には間,表情,声の抑揚,視点など,様々な表現の宝庫であり,これらの表現方法を制作しながら学ぶということは,映像に限らない表現力も高められると考えるからである。

私の中には,このような子どもを育てたいというビジョンがある。新しく,それだけ価値あるものだと考えるので,そこに成功させようとする気概が生まれる。ただ闇雲に子どもたちに映像を作らせるのではない。まず夏に教員に対する映像制作研修を企画し,映画監督と教員を繋げて授業について検討する時間と場をオンライン上に設け,教員が自分達で映像制作をする学習テーマを考え,子どもの撮影機材ハード環境を整える。子どもたちには中間発表会を設け,お互いの映像を見合ってアドバイスをもらったり,映画監督から新しい視点を教えていただき試行錯誤を繰り返す。そこに指導の台本はない。

教員も子どもも,そして私も次々と新しい挑戦をしながら「遂げずばやまじ」の状態になれていることを実感している。今後も新たなことに挑戦する教育の場にしていき,成功しようとする取り組みそのものを苦行ではなく,楽しめるようにしていきたい。

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