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1億円の低カロリー

 新進気鋭の実業家と持て囃されていた男の悩みは自己管理だった。
 事業がうまくいくにつれ会食が増える。どれも豪勢で旨い食事だったが、男の好物は背脂たっぷりのラーメンだった。どんなに遅く帰宅してもラーメンを食べて寝たい。だが当然太る。男は悩んでいた。

 そんな時、ある医師から、どんな食べ物でも低カロリーにできる、人工胃袋を1億円で移植しないかと持ちかけられた。大好物のラーメンが脳裏にちらつく。もう我慢の限界だ。男は冷静な判断ができなくなっていた。

 食って食って食いまくった。
 豚バラチャーシューを頬張り、麺をすすり込み、背油たっぷりの汁を飲み干した。

 そして今、男は病院のベッドにいる。
 1億円の人工胃袋は、食べた物が低カロリーになるだけで、摂取した塩分量や脂質が変わるわけではなかったのだ。
 体の不調は、男の食べる気力まで奪ってしまった。
 病院食すら、低カロリーになってしまう男の体は、もう長いことはないだろう。




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