見出し画像

【お】問題について考える


丁寧に【お】をつける時がある。

例えば職場で
「佐藤さん、2番にお電話です」
などは普通に使う。
こういう時にサラリと使う【お】は丁寧さがあり上品なものだ。
しかし、こうなるとどうであろうか。

「この、お醤油味のおソースは、お豆腐はもちろんのこと、
焼いたおナスや、お大根のサラダにも、とても良く合います。
今夜のおビールや、お酒のお供にいかがでしょうか」

途端に鬱陶しい。上品ぶってんなぁーと、思わず悪い顔をしてしまう。
以前、料理番組を見ていて、ありとあらゆる食材の頭に
【お】をこれでもか、とつける料理の先生がいたのを思い出す。
とかく食材は【お】をつけられがちだ。
調味料などはもう【お】のオンパレードである。

お砂糖、お塩、お酢、お醤油、お味噌、おソース

ナンプラー、豆板醤あたりの
新規参入型調味料には、なかなか【お】はつかない。
オイスターソースは、奇跡的に【お】がついていて、
それこそ一瞬「おっ!」となったものの、
ただ頭文字が【お】で始まるだけなので、当然カウントされない。
もしオイスターソースを【お】仲間にしたら、
伝統的な日本の調味料であるにも関わらず、【お】がつかない、
みりんの立場がなくなってしまう。

一度、何かでブドウを「お葡萄」と書いてあるのを見て
違和感に身悶えしたことがある。
地域的に「おブドウ」と呼ぶところがあるのかもしれないが、
個人的には、野菜や果物には【お】をつけなくても、
下品に聞こえないと思うのだが、どうだろう。

なす、だいこん、みかん、りんご
かえって【お】をつけることで、上品が行き過ぎてしまうように感じる。
野菜に於いて、特にナスは【お】をつけられがちだが、

秋ナスは嫁に食わすな

に【お】をつけたら、

秋おナスは嫁に食わすな

となる。
嫁以外に、登場人物が増えた気がする。
突然登場するアキオの存在に戸惑いを隠せない。
そこまで丁寧にするなら「食わすな」の方もどうにかしろと言いたくなる。

しかし、上品と違和感の差は、本当に曖昧だ。
酒や茶には【お】をつけたほうが収まりがいいが、
お紅茶やお珈琲は、ちょっと上品ぶった感じがある。
菓子には【お】をつけてお菓子と言ったほうが美味しそうだが、
お羊羹、おカステラ、おケーキはどうにも違和感だ。
だが、団子と饅頭は【お】をつけることを推奨したい。
それに個人的な事情で、何となく団子とは呼びにくい。
やはり、おだんごと呼びたい。

この【お】は許せて、この【お】が許せない、という話は
何だか想像以上に途方も無い気がしてきた。
もういっそのこと、何もかもに【お】をつけて
国民全体で、丁寧な暮らしを目指すというのはどうだろうか。
食材だけではなく、ありとあらゆるものに【お】をつけていくのだ。

おスマホ、おパソコン、おゲーム、おテレビ、おYoutube

もちろん、noteのサイトも、おnoteとなる。

しかし、そうすると別の問題も起こりそうだ。

解散総選挙となった際、各テレビ局は選挙特番を放送すると思うのだが、
その際、選挙戦を勝ち抜いた政治家たちが、
カメラの前で

「おばんざーい! おばんざーい!」

とバンザイ三唱をする事態になってしまうのだ。
これではまるで、おかずを目の前にして喜んでいる人にしか見えない。
【お】をつけると意味が変わってしまう言葉もあるのだ。
やはり、全てのものを統一化するのには無理があるらしい。
どうやら、この【お】問題は、現状維持のまま、
今後も、曖昧にやり過ごすしかなさそうである。



お読み頂き、本当に有難うございました!