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明日は暑くなるってよ

 私は暑いのが苦手である。
 近頃涼しくなったおかげで、エアコンのない台所での仕事もしやすくなってきた。我が家の台所は、真夏になると35度近くに達する。高温多湿もいいところだ。一度玄米を米袋ごと台所に置いておいたら、秋口に虫がわいてしまった。それ以来、夏場、買い置きの玄米は、エアコンのある部屋に移動させている。
 9月に入り、30度を超す日も少なくなってきた。室温も25度前後をうろうろしている。こんなに涼しいなら、もう玄米を台所に戻してもいいだろうと思っていた矢先、夫が言った。

「明日は暑くなるってよ」

 明日辺り、買い置きの玄米や食材を台所に移動させ、部屋を広くしようと息巻いていた私は思わず、

「えーーーー、そんなこと急に言われても困るよぉ」

 と駄々をこねた。すると夫は小柄な身体を更に縮こませ、申し訳無さそうに上目遣いで私を見た。

「え……急だったかな。そんなにせわしなかった?」

 そう言うと、夫は大きく息を吸い込み、

「あーーーすーーーはーーー、あーーーつーーーくーーー、なぁーーーるーーーっーーーて、よぉーーーーーーーーーー」

 と言った。
「なんだい、それは?」
 そう夫に聞くと、
「だって、急だって言うから、ゆっくり言えばいいかなと思って」
 とニマニマしている。確かにゆっくりではあったが、そういうことじゃない。私はただ、今更また暑くなられても困ると思っただけである。

 元々、秋の空は変わりやすいと言われている。
 近年は9月になっても、とても残暑とは思えないような酷暑が続いていたので、今年の9月の涼しさは少し珍しいのかもしれない。
 夕刻をとうに過ぎ、外では絶え間なく虫の音が聞こえてくる。もし明日、急に暑くなったら、気持ちよく鳴いている虫たちはどうなるのだろうか。干からびて倒れたりしないだろうか。そんなことを考えながら、今日の夜も更けていくのであった。




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