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蒸し暑さのせいだろうか。 急に、中村屋のレトルトカレーが食べたくなった。 中村屋が日本でカレーを発売したのは昭和二年のこと。 箱のパッケージには《日本のカリー文化発祥の店》の文字が輝いている。 どこから見ても悪いヤツのことを、札付きの不良などというが、中村屋はどこからどう見ても老舗。まさに札付きの老舗である。 若い頃、通学の乗り換え駅が新宿だったこともあり、新宿の地下道をよく歩いた。人並みにまぎれながら進んでいくと、新宿中村屋本店の地下入り口が見える。横を通る
私の夫はチラシが好きだ。 おそらく本人には自覚がない。しかし、パソコンでスーパーのWEBチラシを見ては、アレが安い。コレもいい、とよく騒いでいる。 夫が一番盛り上がりを見せるのは駅弁大会と、北海道、福岡などの野菜や名産品フェアのチラシが出たときである。 「おっ! 北海道産のアスパラがくるよ!」 「サッポロクラシックあるかな?」 「ジンギスカンが980円だって!」 とにかくうるさい。 それだけで、20分くらいはご機嫌に騒いでいる。 それならばと、喜び勇んで買い
いいかげん、トースターを買った方がいいのではないか。 月に一度はそんなことを考えるのだが、未だ思い切れずにいる。 我が家はこれまで、トースターのない生活を送ってきた。夫が米どころの出身で、基本的に朝はご飯と味噌汁だからだ。 パンを焼くのは週に1度か2度。 ずっとトースターなしでやってきたのだから、このままでもいいのではないか。そう思い始めると、新たに物を買うことに、二の足を踏んでしまう。 我が家ではこれまで、パンを焼くときは、魚焼きグリルを使って凌いできた。
「ねぇ! 聞いてよ! 酷いんだよ!」 帰宅するなり、夫が「ただいま」も言わず、プンスコ怒っている。 私と違って夫は、大概のことは平常心で受け流せる人格者なのだが、この日は洗面所で手を洗いうがいしながら 「酷い、あれは酷いよっ!」 と言い続けている。職場で理不尽な目にでも遭ったのだろうか。とても心配だ。 「何があったの?」 神妙な面持ちで訊いた。すると夫は、キッと私の方を振り向き、 「あのね! 今日食べたお弁当が、物凄く上げ底だったんだよっ!」 そう言い放っ
五月も後半に入ると、いよいよ夏本番の気配が漂ってくる。 今の季節は、いうなれば初夏。一応、もう夏なのだから、30℃越えの夏日が続出するのも当然と言える。 だが、私は暑いのが苦手だ。 暑さというよりも湿気が苦手で、汗っかきのせいか、部屋の湿度が60%を越えてくると、もう駄目である。 「何か今日、暑くない?」 「蒸れる! 体が蒸れるよぉ!」 「痒い! お腹が痒い!」 そうやって、一人で大騒ぎしている。 近所迷惑になるほど騒いでいるつもりはないが、そばにいる夫からす
実家にいた頃、だらしなく寝転んでいると母に言われた。 「トドみたいに寝転がってるんじゃないの!」 家で細々した家事をして働いていた母からすれば、手伝いもせずゴロゴロ転がる娘が、邪魔で仕方がなかったのだろう。 これがスリムで小柄な人であれば、犬や猫など、小さくて可愛らしい動物に例えてもらえるのかもしれないが、いかんせんそういった愛らしさが私には皆無だった。 しかし私は、母からトド呼ばわりされても、大して気にも留めずにいた。なんせ、トドと言われたところで、見たこと
その日、私達夫婦は、頭の上でタオルを回していた。 一見すると、その姿は矢沢永吉や湘南乃風のライブに熱狂するファンのようにも見えるが、ここはライブ会場ではなく、自宅の賃貸マンションの一室である。 そんな賃貸マンションのポストには、郵便物だけではなく、いろいろなチラシが投函される。我が家で一番多いのは、宅配ピザやお寿司、新築マンションなどのチラシだ。ある日、そんなカラフルなチラシの中に、自宅のプリンターで印刷したものと思われる、素朴なチラシがまぎれていた。 迷子の鳥を