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花丸恵の掌編小説集

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自作の掌編小説(ショートショート)を集めました。
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#創作

ぼくを児童相談所につれてって

 おまわりさん、おまわりさん! お願いです。ぼくを児童相談所ってところにつれてってください。何しに行くのかって? 保護してもらうんです!  ぼく、テレビで見ました。お父さんお母さんと一緒にいられなくなった子は、児童相談所で保護してもらえるって。でも、ぼく、行き方がわからないから、交番に行けばつれてってもらえると思ったんです。  ケガ? あざ?  そんなものはありません。だって、ぼく殴られてないもん。でも、ぼく、もうお父さんお母さんとは、一緒にいられないんです。だから今すぐ

1億円の低カロリー

 新進気鋭の実業家と持て囃されていた男の悩みは自己管理だった。  事業がうまくいくにつれ会食が増える。どれも豪勢で旨い食事だったが、男の好物は背脂たっぷりのラーメンだった。どんなに遅く帰宅してもラーメンを食べて寝たい。だが当然太る。男は悩んでいた。  そんな時、ある医師から、どんな食べ物でも低カロリーにできる、人工胃袋を1億円で移植しないかと持ちかけられた。大好物のラーメンが脳裏にちらつく。もう我慢の限界だ。男は冷静な判断ができなくなっていた。  食って食って食いまくった

ポッキーのおばさん

                     ・ショートストーリー・ 冬の日、団地の立ち並ぶ街中を、僕は一人歩いていた。 ヒューッと風が音を立て、耳の裏を通り抜ける。 ちょっと、コンビニのおでんでも買って食べようかな。 その風の冷たさに、思わずおでんが恋しくなってしまう。 僕は、日の短さを感じながら、駅に向かって歩いていた。 「わーーーーーーん!」 遠くで子供の泣く声が聞こえてくる。 張り裂けそうなその悲痛な声に、僕は声のする方を見た。 小さな男の子が、一人で泣いている