【とある深夜のシンヤたち】-とある深夜の向坂晋也(サキサカシンヤ)-

地下鉄の終電の車内で、

マスクをしているオッサンの数を

心中にてカウントするは、

向坂晋也(サキサカシンヤ)、25歳である。

ヴィレッジヴァンガードで手に入れた

黒く大きなヘッドフォンには、

両方の耳あてのど真ん中に白い星があり、

買った頃には「割とかっこよくね?」と思っていたものだが、

今となっては年の割にバカっぽく見える感じだ。

5年ものである。

しかも、いまの格好はスーツであり、

酔っ払っていろんなことがどうでもよい、

というような投げやりな気分で、

だらしなく座っている状態だ。

バカっぽさに拍車が掛かっているように感じている。

なんとなく出来ない会社員の見本のような気がしてきて、

向かいの窓に映る己の姿を改めて確認している向坂は、

今日大学の同窓会で初恋の女子に会ってきたばかりだ。

そして、

酔いすぎて言動がどんどんどんどん下に行く彼女に

どんどんどんどん幻滅し、

グラスを倒され、

白いワイシャツの胸元に赤い安ワインのシミを作られたところで、

向坂の気持ちは完全などん底に辿り着いた。

「中高男子校育ちだからって、そこまで夢見がちなつもり、ないんだけどなぁ」

と思い、

「それでも、あれはちょっと萎えるよ、やっぱなぁ」

と思い直すが、

正直ヘコんでいる向坂である。

落ち込む彼には、この言葉を贈りたい。

女子とは、開いている穴に応じた性格をしているものだ。


落ち込む勿れ、向坂晋也よ。

車内のマスクのオッサンの数は8であった。

「末広がりだ」

喜ぶ向坂晋也は縁起担ぎが好きだ。

とある深夜の向坂晋也。

今日の深夜が明日の晋也の糧となるよう祈るばかりである。

合掌。 

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しろくまʕ ・ω・ )はなまめとわし(*´ω`*)ヨシコンヌがお伝えしたい「かわいい」「おいしい」「たのしい」「愛しい」「すごい」ものについて、書いています。読んでくださってありがとうございます!