童話小説「ガルフの金魚日記21」
『ガルフ。ガルフ…』
ぷくーぷくー…。
うらうらと、うたた寝をしていると、だれかがぷくを呼んでいます。それもなつかしい声です。
あれは…、四季ばあさんだ。
記憶がよみがえるとともに、はっとして、目がさめました。
「ガルフや、ぷくぷくして、いつ見てもかわいいのう。元気じゃったか」
「その声は、四季ばあさんだよね。ぷくは、元気ですよ。ほれ、このとおり」
ぷくは、金魚鉢の中をグルっとひと回りしました。でも、四季ばあさんは見あたりません。
おばあさんの気配はかんじます。これ、金魚のカンです。
「おばあさん、どこにいるの。かくれんぼですか」ぷく。
『ここじゃよ』
「どこですか」ぷくぷく。
もう一度、金魚鉢のまわりをゆっくりとおよぎました。
だけど、四季ばあさんはいません。ひょっとして、これって…ゆうれい…?
そう気づくと、ブルブルっと、からだが大きくふるえました。
そして、なにげに上を見上げると、おばあさんが宙に浮いて、ぷくを見下ろしています。
『ガルフや、そんなにハデに、ふるえることはないじゃろう。なにもこわがることはないよ』
「おばあさん。そのすがた…、こわいです」ぷく。
『このきもののせいだよ。あたしは、ウメの花か、ボタンの花がこう、ちらばったガラがよかったんだけどね。これは、あの世のフォーマルウエヤーだからねぇ。変更はできないのさ。しかたがなくガマンしてるのよ。いまではあたしもなれたよ。ガルフだって、すぐになれるよ』フフフ。
ゆうれいさんにも、いろいろと面倒な規則があるようです。ぷく。
『おまえとこうしてはなしをするのは、ひさしぶりだね』
「ぷく、そうですね。おばあさんが出窓のここにすわって、ぷくがおばあさんのよこにいて、おばあさんはぷくに語りかけてくれました。そのおかげでぷくは、お話ができるようになりました」
『そうだったね』
「それからは、ぷくぷくと、よくおしゃべりしましたよね。それからしばらくして、冬さんともおしゃべりができるようになりました。おばあさんには、感謝しかありません。ありがとうございます」
『なんも、礼などいうことないよ。あたしはかってに好きなように話してだけだよ。おまえと話ができて楽しかったよ。ただそれだけさ』
「そういっていただいて、ありがとうございます。とてもうれしいです」ぷく。
『そうかい、そうかい。よかった、よかった』
おばあさんは、ゆうれいになってもやさしいおばあさんです。
明日の金魚日記へつづく
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