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童話小説「ガルフの金魚日記22」

「ねえ、おばあさん。きいてもいいですか」ぷくぷく。
『なんだい、ガルフ』
「どうしてゆうれいさんは、そんな白いきものすがたなのですか」ぷく。
 ぷくは、こころにうかんだ疑問(ぎもん)を口にしました。

『そうだよねぇ。あたしもね、ゆうれいのえらいさんに、そういってみたんだけど、それが決まりだから、の一点張りでね。あのえらいさんも、なぜだか知らないんじゃなかねぇ』

「そういうものですか」ぷくぷく。
おばあさんがきている白いきものも見なれてくると、じょじょにですけど、こわくなくなりました

 それで、おばあさんの顔をよく見ると、とても若くてきれいです。ぷくの知っているおばあさんより、ずっとずっと若いです。
四季ばあさんじゃなく、四季ねえさんのように若いすがたです。

そのことをおばあさんにたずねると、うれしそうに、ふょっふょっふょと、歯のぬけた笑い声をあげました。
『そうかい、そうかい。うれしいのう』

「でも、やっぱり、へんです」ぷーく。
 ぷくの知ってる四季ばあさんとは、ぜんぜんちがいます。
『そうかねぇ、へんかねえ』

 四季ばあさんは、からだをみぎひだりにひねり、自分のすがたを見ています。
「すがたじゃなくって、その顔です。ぷくの知ってるおばあさんじゃないです」ぷく。

『おかしいかねぇ。変えなきゃいけないのかねぇ』
 ぷくぷくぷく。

『あの世では、着物はこれに決まっているのだけど、顔はすきにしていいんだって。だから、うらみを持っている人は、お岩さんのような、おそろしい顔にするらしい。でもね、あたしはああいうのはどうなのかね、ゆうれいとしての品(ひん)がないよね、だからきらいだね。だからあたしはね、じぶんの若いときの顔にしてもらったのさ』

「そうだったんですね。じゃあ、ぷくも、もっともっと、若いおばあさんの顔に、なれなければいけませんね」
『そうしておくれ。ガルフや、そろそろ時間がきたようじゃ。このへんで、いちど家にかえるよ』
「おばあさんの家は、ここじゃないですか、どこへ帰るのですか」

『ははは。ゆうれいの家は、あの世さ』
 そんなことを笑いながら言うと、四季ばあさんは、ふっとすがたを消し、いなくなりました。

 金魚鉢のふちに、白と黄色の羽をした、ちょうちょうがとまっています。頭がむらさき色です。
 いろんな色どりをして羽を、ひらひら羽ばたかせると、出窓から月夜の空にむかって飛んでいきました。

     明日の金魚日記へつづく

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