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プリン・ア・ラ・モードに会いにゆく~No.5「ヘッケルン」~

2018年9月6日訪問

バイト探しは難航していた。面接の場で募集要項に載っていなかった時間帯への勤務を打診されることが多く、「最初からそれ言ってくれたら来なかったのに。お互い時間の無駄じゃないですか…」と暗鬱とした気持ちで面接会場を後にするのが常だった。

この日、ヘッケルンを訪れたのも確かそんな不毛な面接の後だった。こちらのお店の名物は「ジャンボプリン」。フルーツもクリームもない。私の好きなプリン・ア・ラ・モードの定義に該当しないことは事前に知っていた。だが勝手に先生と思っている難波さんの著書『純喫茶とあまいもの』の「プリン・ア・ラ・モード」の項に選ばれている店は全部行きたい!と思い始めていたので新橋まで足を運んだ。

ドアを開けると広くない店内はほぼ満席。16時頃だったので混んでいるかもとは思ったがここまでとは!マスターの真正面のカウンター席しか空いていない。初来店&人見知り(というか人怖がり?とでも呼ぶべきか)な私には少々ハードルが高い!ビビりつつも店員のお姉さんの温かい声に促され席に着く。その目の前で、お目当てのジャンボプリンが一気に四つお皿に出されているところだった。マスターがきびきびとした動きで、次々にプリンを型から外していく。まず驚いたのは最後にスプーンで掻き出されてくるカラメルソース。とろりとしていて、店内の照明を受けてきらきらと艶めいている。思わず魅入ってしまうほど美しい。四つのプリンが席に運ばれた後、おそるおそるお姉さんに尋ねた。「あの、プリンまだありますか?」お姉さんがにこやかに「ありますよ」と答えてくれた時ほっとして思わず「ああ、よかった~」と言ってしまった。それを聞いてマスターが「大丈夫。これからまたちょうど作るところだから」と、笑顔で大きなボウルなどを準備し始めた。オーダーしたコーヒーとプリンを待つ間、NHKテキスト「趣味どきっ!幸せのプリン」のレシピを見たこと、実際に作ってみたことをお話してみる。

8月にNHKの「趣味どきっ!」という番組内で、ヘッケルンのジャンボプリンが紹介されておりこのテキストではレシピも公開されていた。マスターも店員さんも聞き上手なのでついつい私もおしゃべりになってしまった。レシピの通りに作ったのに、この時点で私は既に二回失敗していた。その話を聞く間にもマスターの作業の手は止まらない。サイフォンで軽やかに無駄のない動きで淹れられたコーヒーとジャンボプリンをいただく。

ひとくち食べた瞬間、まずその香りに驚いた。カラメルソースそのものがとてもいい香りなのだ。べっこう飴のような、砂糖そのものの香り。苦味はなく香ばしい。プリンは固すぎず柔らかすぎず、口当たりなめらか。おいしい!当たり前だが私の失敗作とは雲泥の差であった。卵と砂糖と牛乳と少量のバニラエッセンス。それだけ。それだけなのにこの違い!

難波さんの本のインタビューで「よそにはまねできない、つやつやぷるぷるの18歳の肌のようなプリンを作るぞ!って気合が入るね」とか「ひとつひとつに『つるつるねー』とか『かわいいねー』と心の中で呟きながら作っているよ」と語っていた森マスター。それを知っていたせいもあるのだが、マスターの手ずからお皿に出されるプリンは、みんなマスターの孫娘みたいに思えて仕方なかった。大事に、大事に口に運ぶ。ゆっくりと味わう。

マスターのプリンを作るところを目の前で見ながら、改良点の相談にのってもらうというかなり図々しい、贅沢な時間を過ごしてから家路についた。

次に作るときは必ず成功させます!また来ますね!と勝手に独りで盛り上がっていたのだが…

三回目でもまだこのレベルです、マスター…
成功させてないけど、また近々会いにゆこう。マスターの孫娘に。

★ヘッケルン
東京都港区西新橋1-20-11安藤ビル1S
最寄り駅:JR新橋駅・銀座線虎ノ門駅・都営三田線内幸町駅

貴方のサポートが、プリン・ア・ラ・モード保全運動(?)の力になります。 次は貴方の街のプリン・ア・ラ・モードに会いにゆくかも?!