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編集者がネタを発掘してから取材するまでの思考と行動を言語化してみた。

こんにちは!SELECK編集長のやまもと(@hanahanayaman)です。

久しぶりにノウハウ系のnoteを書きたいなと思い、なんのテーマにするか迷いましたが、今回は「取材獲得」について書いてみようかなと思います!

理由としてはシンプルで、記事の書き方やインタビューの仕方よりも情報が出回っていない話なので、読む人にとって情報価値が高いかなと思ったから。(一方でニッチかもしれないw)そして、メディアの業務をしてきたなかで、一番難しいのもココだと思ってます。

取材ネタ、つまり「取材になりそうなタネ」をどのように見つけて、どうやって切り口を調整し、取材に至っているのか。

3年もやっていると、ある種の「嗅覚」みたいなものが備わってくるので言語化がむずかしいのですが(笑)、できる限り整理して書いてみようと思います。

はじめにお断りしておくと、このnoteは、「わたしの思考や仕事の仕方を、編集部のメンバーに共有すること」を第一の目的として書いています。なので、メディア一般論として書いているわけではありません。

ですが、いちWebメディアの思考を開示することによって、企業でPRをご担当されている方にも、企画提案や採用PRのご参考になる部分があるかもなーなんて思ってたりもします。

あくまでSELECK流ですが、よければご覧ください!

1. はじめに、実際の経路を公開してみる

このnoteを書くにあたり、ここ1年間で、実際に私が取材したネタ経路を集計してみました。(SELECKは基本的に、ネタ探し〜取材〜執筆まで、一気通貫して担当するスタイル。)

ざっくり覚えている範囲ですが、連載・特集系の取材を除いて、多い順に並べてみた結果が、以下。

・企業からの取材依頼(リピート含む):14件
・noteやブログ等、何かしらの情報をもとに取材打診:7件
・ネタ元ないけど取材したい企業に相談:5件
・過去取材先など知り合いからの紹介:3件

わたしはSELECK歴が長くなっている分、他のメンバーと比べてリピート依頼が多かったりしますが、だいたい企業から取材依頼がくるのと、こちらから取材依頼するのと半々くらいかなという感じ。

編集部全体でいうと「なにかしらのネタを見つけて取材打診」もしくは「特定のネタを見つけられてないけど気になる企業に取材相談」のパターンが過半数を占めると思います。

人それぞれ、自分に合ったネタ探しのスタイルがあるのですが、私は圧倒的にTwitter派。ただ、編集部に来たばかりのときはTwitterやってなかったし、違うやり方もあるので、なるべく再現性あるように書いてみます。

2. ネタ元を探すときの「入り口」はなにか

SELECKは「先進性と再現性をもった事例」を取材しているメディアなので、最初からバチっと「これ、取材できる!」みたいなネタを見つけるのは至難の業です。(※詳しくはこちらのnoteに書いてます。)

この辺りは媒体によって全然異なると思いますが、わたしたちの場合は、先進性は追っているけれど、速報性は追わない。

たとえば、「資金調達しました」とか「〇〇はじめました」系のニュースは、いかに他媒体に先駆けて情報を発信できるかでニュースバリューがでるかと思いますが、SELECKでいう「事例(=取り組んだこと)」になるにはまだ時間がかかるので、一旦見送る感じです。

なので、こうしたニュースは要ウォッチなサービスだな〜おもしろい取り組みはじまったな〜と目をつけておいて、成果がでてきた良きタイミングで刈り取る。これがひとつの取材獲得パターンです。

ただ、取り組みが実を結ぶまでにかかる時間はまちまちなので、これだけでは安定的なメディア運営ができません。多くの場合は「これは可能性あるかもな」というネタ元をみつけて詳細をヒアリングした上で、取材可能かどうかを判断しています。

そこで大事なのは、取材の可能性がありそうなタネを見つける活動。この「取材の可能性がありそう」には、いくつかの視点があります。

1. 時流にあっている事例
2. 伸びている企業やプロダクト

3. 取材や登壇などで取り上げられている人

たとえば「時流」。わかりやすい例でいうと、コロナ禍における働き方の工夫などは、まさに時流のネタ。初期の頃は「リモートでの働き方」が時流にあっていたと思うし、いまであればリモートが長期化するなかで組織の一体感を高めるための「インナーブランディング」がネタになるかなとか。

あとは職種によっても、いま注目されているテーマってありますよね。開発、デザイン、マーケ、セールス、人事etc…それぞれのトレンドの先端は常に意識しておく。日常的に情報に触れることがめちゃくちゃ大事です。

ちなみに私の場合は、起業家の方や各領域の第一線で活躍されている方をTwitterでフォローして情報収集に使ってます。(開発、デザイン系は追いきれてないので誰か教えてほしい←)

つまり、読者が気になりそうなテーマを軸に「事例」を検索する。旬のネタはTwitterやnoteと相性がよいので、そこら辺で探すといい感じです。

一方で、事例ではなく「企業」「人」を軸に探してみることもあります。時流も大事なのですが、それだけだと、本質的なことを実直に取り組んでいるような事例が埋もれてしまうんですよね。

わたしの経験上、伸びてる企業にはなにかしらのノウハウがある。(初期フェーズだと、ひとりのスーパーマンがいたからという場合もあるけど…)
なので、取材になるかはわからないけれど、とりあえず「何かないですかね」と声を掛けてみる(笑)もちろん、こういうネタが合うかもな〜というなんとなくの目星は考えておきますが、ゆるめのご相談をすることもしばしばあります。このパターンは、ヒアリング力・企画力が大事。(後述)

また「人」を入り口にする場合は、他媒体のインタビューメディアで取り上げられていたり、イベントに登壇しているのをきっかけに着目することが多いです。

特に、特性の違うメディアを参考にすると、ネタ元になりやすいなと思います。SELECKはノウハウ系のメディアなので、たとえばキャリア系のメディアに取り上げられている方とか。すでに出回っている情報は価値が下がるので、違う角度で取り上げられている方に「何かないですかね〜」とご相談する(笑)これも、ヒアリング力・企画力が試されます。

3. ネタ元をどういう「切り口」で掘っていくか

さっきからヒアリング力・企画力と呼んでますが、これなんでしょう。

情報をどういう「切り口」で掘っていけば取材できそうか。この思考が、編集者として最も大事かなと思っています。

わたしの考えですが、ネタ探しがうまい人は、情報を探すのがうまいというより、実は切り口を考えるのがうまいんだと思います。同じ情報を見かけたり耳にした時に、「あ、これはネタになりそうだ」と思えるかどうか。

ということで、実際の事例をもとに、どうやってネタから取材に昇華してるかをご紹介します。(比較的、最近のやつからピックアップしてます。)

1:LayerXさんの場合

この取材は、企業軸でなにかネタないかな〜と探していたパターン。

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(石黒さん、いい人すぎる……!)

そしていろいろとヒアリングさせていただいた中で、プレスリリースの工夫や、社内勉強会などがネタとして出てきました。

うーん、なるほど。

企画力がないと、たぶんこんな感じで、取材難しいかなになると思う。

(心の声)それぞれの取り組みは工夫になるけど、テーマがばらばらになっちゃうな。とはいえ個別に扱うと話のボリュームがなくなっちゃうし。勉強会を深掘る方向性だと、ちょっと先進性に欠けるかな〜。

ここで大事なのは、「どういう背景・目的をもった取り組みなのか」をヒアリングすること。

(石黒さん)社内勉強会は創業初期からずっとやっていて、メンバーの知見をシェアする目的。プレスリリースは、R&Dで得た知見を社外にも伝えることで、事業にレバレッジをかけたりする目的がある。そもそも組織として「複利」が効くことを大切にしてますね。

(わたしの記憶なので、だいたいの雰囲気と捉えてください。笑)

ここまでヒアリングできると、事業成長にレバレッジを効かせるR&Dと、組織にレバレッジを効かせる社内勉強会、でひとつの切り口ができる。他にも複利を効かせている工夫があれば、取材時に聞くといいかもなーみたいな。

というわけで、こういう仮テーマで取材を企画させていただきました。

仮テーマ:「複利」を利かせ、事業成長を加速する。社内外のナレッジ共有を進める、LayerXの戦略とは

ちなみに一言つけ加えておきたいのは、取材企画というものは、取材の方向性は決めるけれど、内容をFIXするものではないです。

LayerXさんの場合も、企画書と記事の構成は全然違います。ある程度の方向性は決めておいて、当日は脱線しながら関連する話を引き出す。その情報を編集して、記事としての「切り口」を見つける。ちょっとイメージつきづらいかもですがw 話が逸れちゃうので、また気が向いたときにでも書きます。

ちょっと長くなりすぎたので、あと2つはポイントだけさらっと(笑)

2:10Xさんの場合

Twitter経由でネタ元を見つけたパターンとして、10Xさんの事例をご紹介。

情報収集を目的として、Twitterでスタートアップの起業家の方をよくフォローしているのですが、結構ツイートそのものがネタ元になったりします。

このツイートを、今年の5月頃に見かけたわたし。

時流にあってるし、他社の参考になりそう。「withコロナにおける働き方の実験」みたいな感じで取材できるかな〜

このときも一度、CEOの矢本さんにお声がけしてたのですが、まだ取り組み過程で話せる段階ではなさそうだったので、一旦時期を見送ってます。そして良き頃合いでお声がけいただき、取材させていただくことになりました。

このツイートが元ネタの場合も、企画力が必要です。というのも、ツイートの内容は情報がかなり限られているので、それだけだと取材にならない。

なので、先ほどと同様にツイートの背景や詳細をヒアリングしたり、関連情報がブログやTwitter、他媒体の記事などにないかを徹底的にリサーチ。

すると、「違う切り口の方がおもしろい取材できるかもな〜」という気づきがあったりもします。10Xさんの場合は、まさにそんな感じでした。(ブログが充実していると、取材企画が立てやすい。)

これを読みました:代表・矢本が目指す「10xな事業と10xな組織」とは?

「withコロナにおけるハイブリッド型の働き方」よりも、そもそも10Xな事業を創るための組織づくりがある。その組織のOSであるバリューから、コミュニケーションを紐解いていった方がよさそうだな。

そのとき思ったことは、こんな感じです。結果的に、コロナ云々ではなく、10Xさんの組織のフィロソフィーを伝えるような記事になりました。

3:ビビットガーデンさんの場合

最後に、note経由でネタ元を見つけたパターンとして、ビビットガーデンさんの事例をご紹介。(わたしではなく編集部のメンバーが見つけてくれた案件。拝借します。)

noteでも広報ブログでも他媒体の記事でも、何でもそうなのですが、ネタ元がなにかしらの「記事」だった場合、気をつけたい点がいくつかあります。

1. 情報に深掘りする余地はあるか
2. テーマ設定を変えたら話が広がりそうか
3. 取り組みが始まってから、一定の期間がたっているか

まずひとつは、SELECKで深掘りできる情報があるかどうか。詳細にきっちり書かれている場合は、SELECKで同じ内容を取材しても読者にとって情報の価値が低くなるので、取材するのが難しくなります。

よくあるパターンとしては、こんな感じ。(ちょっと細かいですが)

1. 全体的にさらっと書かれているので、1つひとつ深掘ればいけそう
2. 全体的にわりとしっかり書かれているけれど、ここのパートに絞って深掘ればいけそう
3. ノウハウが抽象化されていてあまり具体がないので、実例のプロセスがセットだったらいけそう

ビビットガーデンさんのnoteは、しっかりめでしたがヒアリングしたらさらに深掘れる余地がありそうだったので、1と2の中間パターン。

他2つの観点についても、簡単にふれておきます。もし深掘り余地がなかった場合に、テーマ設定を変えたら話が広がりそうかという視点が持てると、企画の幅が広がります。

たとえば「社内ラジオ」のネタがあったときに、それ単品だと難しそうだけど「インナーコミュニケーション」のテーマにすれば取材できるかなとか。

このテーマ設定を変えて企画を広げるコツとしては、その取り組みをはじめた背景や以前の課題感を想像すること。もともと人数が増えてきてコミュニケーションが希薄になってきて…みたいな話であれば、他にも施策をやっている可能性が高く、そことセットにすることで取材になるかもしれません。

そして最後に、取り組みが始まってから一定の期間が経っているか(もしくは経ちすぎていないか)もチェックポイント。これは次の段落に委ねます。

4. そのネタはいま「旬」なのか

この切り口ならいけそう!でも、ちょっと待ってほしい。

もうひとつ考えるポイントとして、お互いにとって「いま」取材するのが望ましいのかを判断するということ。

取り組みの試行錯誤のまっただ中よりは、ある程度ひと段落ついて、振り返りができているタイミングの方が、読者にとって学びが多い記事になります。これが広報ブログであれば過程を小出しにしていってもいいと思いますが、同じネタで何回も取材することはないのでベストなタイミングをご相談する。

また逆に、遅すぎてもSELECKでいう先進性の基準からズレてきてしまいますし、取材先の企業からしても「もうこれ、いま注力してるものじゃないんだよな…」となってしまう。なので、できるだけ早期の段階で一度お声がけしておいて、つながっておき、良きタイミングで取材させていただくのがベストかなと個人的には思います。

5. そもそもの自己開示がめっちゃ大事

今回のメインのお話は、「取材ネタをみつけにいく」という能動的なパターンでしたが、そもそも媒体特性を理解した「取材依頼をいただく」方が、断然スムーズで早いです。

そこで大事なのは、「自己開示」だと思ってます。

取材獲得は、採用と似ているかなと思っていて、能動的なネタ探しはダイレクトリクルーティングみたいなもの。本来、自主応募がバンバン来るモテモテ状態が望ましいわけですが、その人が全然自分たちが求めている人材と違っていたら採用に至らないですよね。取材獲得も、そんな感じ(?)です。

どういう特性をもつ媒体で、いまどういう情報を欲しているのか。まずは自己開示することによって、媒体にあった良質なネタを仕入れることができます。

そこでSELECKで取り組んでいるのが、「取材基準」「取材ウィッシュリスト」の公開です。これは結構いいです。メディアの方々、おすすめです。

取材ウィッシュリスト(Trelloで公開。Qに1回くらい更新)

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取材基準のnoteは、自分のTwitterに固定ツイートしていることもあって、これをみた上で取材依頼してくれる人が多いです。そうするとヒアリングもスムーズだし、「とりあえずリリース出したから載せてください」みたいな媒体に合わない依頼がぐんと減ります。

そしてウィッシュリストは、どういう企画だったら取材してもらえるんだろう…という広報さんの背中を後押しする情報になるようです。お互いwin-winなのでやった方がいいです。(リストに載ってないネタでも、媒体基準にあってれば検討できるので、お気軽にお声がけください!)

つまるところ、こういうことだ。(ただまとめてみたいだけの人)

自分から取材を獲りにいける情報感度や企画力も大事だし、媒体にあった取材依頼を受けられる自己開示もめっちゃ大事

なんか長くなっちゃったけど、伝わったかな。伝わっているといいな。笑 ちなみに取材獲得ができるようになると、めちゃくちゃメディアの仕事が楽しくなります。わたしは、いま知りたいことや会いたい人に簡単にアクセスできるこの仕事は、本当に役得だと思うのです。

ひとりでも多く、メディアの仕事が楽しいと思える人が増えますように!そして良質なコンテンツが世の中に溢れますように! おしまい。

追記:SELECKひっそりメンバー募集してます。1〜2名ほど副業とかで興味あるライターの方いらっしゃれば、DMください〜!

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